大手コーヒーチェーンのスターバックスが、地域文化に根差した店を増やしている。そのうち青森県弘前市の店舗は、「登録有形文化財」の中にある。建物の保護が前提なので、店は手狭で、商売がしやすいとはいえない。狙いはどこにあるのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏が現地を取材した――。
陸軍の官舎跡に生まれた“レトロ”なスタバ
江戸時代、旧津軽藩の城下町として栄えた青森県弘前市(人口約17万人)――。明治31年から昭和20年(1898~1945年)までは陸軍第8師団が置かれ「軍都」となった。
映画にもなった「八甲田山雪中行軍」(1902年、死者199人を出した行軍訓練)もこの第8師団だ。市内に現存する長官官舎(1917年建築。建物は当時の3分の1に縮小)は、切妻破風の三角屋根が特徴で、戦後は米軍接収後に日本へ返還。弘前市が払い下げを受け、1951年からは市長公舎としても使われた。
そんな歴史的建造物が保存修理工事を終え、桜の名所として全国的に名高い弘前公園の前に移転。2015年4月、建物内に「スターバックス コーヒー ジャパン弘前公園前店」が開業した。スターバックスにとっては、神戸北野異人館に次いで国内2店舗目となる「登録有形文化財」への出店だった。
それ以来、新たな観光名所となり、特に桜の季節には店の外に長い行列ができる。弘前公園で行われる「弘前さくらまつり」は、2019年には約289万人(4月20日から5月6日までの17日間)の来園者数を集めたほどだ。
なぜ、弘前市とスターバックスは“文化財カフェ”をつくり、運営するのか? 現地取材を踏まえてその実情を紹介したい。