唯一の条件は「建物をなるべく残してほしい」

「開業の前年、2014年9月にコンペ(建築の競技設計)があり、当社の提案が採用されました。弘前市からの要望は『建物をなるべくそのまま残してほしい』でした」

こう話すのは、スターバックス コーヒー ジャパンの柳和宏さん(店舗設計部建築&サスティナブルデザインチーム チームマネージャー)だ。弘前公園前店の設計を担当し、京都市や神戸市などの「景観に合った店舗」出店にも多く携わってきた。

撮影=プレジデントオンライン編集部
店舗設計部建築&サスティナブルデザインチーム チームマネージャーの柳和宏さん

一方、弘前市の担当者はこう説明する。

「建物を再活用する際、『カフェが望ましいだろう』という話になり、カフェ事業者を公募しました。応募されたのはスターバックスさん1社で、2014年11月27日に『協定』を結び、翌年春に開業となりました。冬期は積雪がある地域ですが、市としても1年中、お客さまにお越しいただく通年観光を目指しています」(広聴広報課・古川こがわかいさん)

現地の企業経営者からは、「結果的にスタバの単独入札となったが、市としては最も集客効果が期待できる店でよかったのではないか」という話も聞いた。

全国的に有名な「弘前城の桜並木」が店内からも見渡せ、満開の季節はもちろん、春から秋にかけては人気スポットだ。取材時は平日の朝で落ち着いていたが、入れ替わりにお客が来店していた。残された課題は、冬の集客をどう工夫するかだろう。それは後述したい。

“景観に溶け込む店”を増やしている理由

スターバックスにとって、この建物は「当社の世界観とも強い親和性があるという意味で、面白いと思いました」と柳さんは振り返る。もともと同社は、店を自宅や職場や学校ではない「サードプレイス」(第3の居場所)と位置付けており、現在は基本思想に近いコンセプトを踏まえて、それぞれの立地に合わせて店を展開する。

近年は、日本の各地域の象徴となり、地域文化を発信する店「リージョナル ランドマーク ストア」を地道に広げる取り組みにも力を注ぐ。2005年の「鎌倉御成町店」(神奈川県鎌倉市)が1号店で、全国に25店(2019年9月30日現在)ある。国内総店舗数1497店(同9月30日現在)の中では数少ないが、同社にとって重視する取り組みだ。

歴史や文化の色づく地域の象徴として、例えば「京都二寧坂ヤサカ茶屋店」(京都府・京都市東山区)、「神戸メリケンパーク店」(兵庫県神戸市中央区)、「鹿児島仙巌園店」(鹿児島県鹿児島市)など各地に展開する。開業までじっくり取り組み、京都のように構想から実現まで約10年かかった店もある。ただし定義付けがされたのは2016年で、前記の3店もすべて2017年にオープンした。