価格の高騰は、認知の広がりに連動する
白人男性が多い美術界で、日本人の女性で、女性かつ心に障がいも持つという立場で世界的な成功を収めた成功したアーティストは、草間以前にはいなかったでしょう。このように大きなギャップを埋めるということも、現代アートの成功には大事な点です。
直島の古い桟橋の黄色いかぼちゃの彫刻は、草間がニューヨーク時代以来、制作してきたもので、かぼちゃのシリーズをはじめて屋外彫刻にしたものです。それまで絵画や室内に展示するオブジェとしては制作してきましたが、屋外用の大きなかぼちゃは、私が直島にいた時期に依頼したものです。
かぼちゃのシリーズは80年代後半、すでに1000万円前後で取引されていましたが、2000年代には5000万円から一億円ほどになり、2015年10月に香港で開かれたサザビーズのオークションでは、約8億円で落札されました。
作品における価格の高騰は、世界において作家の認知の広がりに対応します。欧米から広がった人気はやがて、他の国、地域へと広がっていったのです。草間作品の価値は、今後右肩上がりとなっていくでしょう。
価格の上がるアーティストは、常に時代に色あせない価値、何世代も地域も超えた普遍性を持ちます。誰からも受け入れられ、かつ次の時代をつくり出すクリエイティビティがあり、はじめてアーティストとして成功するのです。草間を目指す若手の女流アーティストは世界中に誕生しましたが、草間のような成功は、限られた人のみが成し遂げられることです。
プライマリー・マーケットとは何か
先ほどのオークションで、作品が8億円で落札されたからといっても、草間には1円も入りません。お金を手にするのはあくまでも出品者とオークション会社です。なぜならオークションは「プライマリー・マーケット」ではなく「セカンダリー・マーケット」での取引だからです。
アートの価格は、「プライマリー・マーケット」と「セカンダリー・マーケット」の二種類の仕組みで決まります。プライマリー・マーケットで取引されるのは、「作家から直接販売される作品」で、セカンダリー・マーケットで取引されるのは、一度販売されたものが再び市場で「再取引される作品」になります。
プライマリー・マーケットとは、文字どおり「第一次マーケット」で、アーティストが新しい作品をギャラリーで発表し、その場でお客様に売る、初もの作品を扱うマーケットです。プライマリー・マーケットの中に入るものは、コマーシャル・ギャラリーと呼ばれているもの、百貨店のギャラリーなどがあります。
ただし百貨店の値付けは、間に業者が入っていて、純粋なプライマリーとは言い難いところがあるので、ここでは作家が直接作品を提供するコマーシャル・ギャラリーのみを指すことにします。