伊藤若冲を発掘したアメリカ人収集家のセンス
そうはいっても、自分が好きになった画家の絵が市場でまったく評価されていなければ、センスがないとみなされるのではないか。
その気持ちはわからなくありませんが、心配は無用です。
江戸時代の画家、伊藤若冲は、もともと日本ではあまり高く評価されていませんでした。ところが、2006年にアメリカ人収集家のジョー・プライスが京都国立博物館の展覧会で紹介したのがきっかけで話題となり、いまでは彼の作品は国内外で注目の的となっています。
プライスはもちろん、若冲の絵はあまり人気がないことは知っていたはずです。でも、あの鮮やかな色使いと緻密な筆致に心を動かされたため、かまわず作品を自分のコレクションに加えたのです。
あるいは、千利休。彼は最初の茶会で、わざと青くなり損ねた青磁の茶碗を使い、逆に評価を高めました。また、ろくろを使わず手びねりという技法でつくった茶碗も、利休がこれを取り入れたことで一般の人の評価がたちまち高まったといわれています。
このように、何かのきっかけでそれまでの価値基準が180度変わるというのは、アートの世界では珍しいことではありません。そういう意味では音楽家のモーツァルトだって、200年後には誰も聴かなくなっているかもしれないのです。
そのため、現在の社会の評価がどうであれ、自分が気に入ったものは堂々と好きといえることが大切であり、それができる人は間違いなくセンスがあるといえます。