かつてなく接近する「アート」と「工芸」の領域

ここまで、「アート」と「工芸」という言葉を分けて用いてきましたが、ここ数年の世界的な傾向を見てみると、「アート」と「工芸」の領域が接近していることを実感しています。

秋元雄史『アート思考』(プレジデント社)

アートと工芸は、日本ではもともと境界が曖昧です。欧米では、崇高な美を追求するアートと、暮らしと密接する工芸は別物という根強い考えがある一方、19世紀末のイギリスで起きたアーツ・アンド・クラフツ運動、20世紀初頭のドイツのバウハウスの活動のように生活と芸術を融合させようとする動きが生まれました。日本においても、20世紀初頭に柳宗悦らにより、生活の中に美を見いだそうとする民藝運動が起きています。これらはどれも絵画や彫刻などのファインアートと生活用具である工芸をつなぐというだけなく、新時代の暮らしを提案する総合芸術運動として展開してきました。

現代において、工芸はかつての勢いを失い、失速する筆頭に挙げられる領域のひとつですが、国際的に活躍している作家も出てきています。そうした作家の作品は、伝統技術が、最新の現代アートやデザインと出会うことで、未来に向けた新たな可能性を生み出しているのです。

こうした動きを反映してでしょうか。2017年、世界最大のアートフェアの開催地であるスイスのバーゼルに、突如、「バーゼル・トレゾア・コンテンポラリークラフト」という国際クラフトフェアが、登場しました。「アートフェアの世界的な開催地に、ついに工芸も登場した」と業界では話題になったのです。このほかにも、英国のロンドンやエジンバラ、韓国、そして日本では私が1、2回目のディレクターを務めた金沢・世界トリエンナーレなど、新しい文化の創造とものづくりの可能性を探求する国際的な動きが、生まれています。

世界的に工芸が注目されるなか、日本でも素晴らしい工芸作家が数多く生まれています。拙著『工芸未来派 アート化する新しい工芸』(六輝社刊)では、現代アートの感性を工芸に取り入れた作家を、陶磁、ガラス、金工、漆芸、染織などの各分野から紹介しました。奇妙に誇張されたフォルムや明るくポップな色彩が特徴の陶磁作品を製作する桑田卓郎さんや、独特の色彩感覚によるガラス作品を生み出す塚田美登里さん、漆を用いながら、これまでとはまったく違う表現を見せる青木千絵さんなど、私はこれまでの工芸のイメージを覆す作家たちに注目しています。