工芸品を手元に置き、感性を磨く

工芸品を生活に取り入れることで、どのようなメリットがあるのか。科学的に証明するのは難しいですが、私は、アートや工芸に多く触れることで、感性が鋭くなり、言語化できない何かを感じ取る力が身につくと考えています。

東京藝術大学大学
撮影=西田香織
東京藝術大学

感性の鋭さ、という意味で私がすぐに思い浮かぶのが、金沢の由緒ある料亭の家に生まれた友人です。私もアートや工芸品は相当見てきたつもりですが、彼の目利きには、いつも驚かされています。たとえば、彼と一緒に神社などで開催される、いわゆるボロ市に行くと、品物が出されるや否や、価値あるものを即座に見つけ出すのです。そうした品々は1箱数千円ほどで売られているのですが、彼が選んだ品は何倍もの値段で売れるだけでなく、なかには歴史的な価値を認められて美術館に収蔵されるものまであります。

なぜ、そんなことが可能なのか。彼は「瞬間的に目に飛び込んでくる」と言いますが、まさに感性です。この感性は彼が子どもの頃から身の回りに工芸品がある環境に育ったことも、少なからず影響していると考えます。

目利きをする力を磨くには、やはり数多くの作品を見る必要があります。それにできれば手に取ることが大事です。色や形といった資格情報だけでなく、重さや質感も本物を見極めるためには必要な判断材料です。金沢の友人のような環境で育った人はまれですが、美術館やアートフェアなどで作品を鑑賞し、あるいは工芸品を購入して直接触れることで、目利きになる力を高めることはできるでしょう。そのためには、一流と言われる有名な作品だけでなく、さまざまな作品を見ることが大切です。美術館に行くにしても、有名な場所だけでなく大中小さまざまなところを訪れてみると良いでしょう。

日本に高い美意識を持った目利きが増えれば、アートや工芸のみならず、広く、日本のものづくりの発展に資すると考えます。また、今までにないアイデアや価値を自ら発信して、新たなトレンドを作りだすアーティストの姿勢から、ビジネスを生み出すための発想を得ることも可能になるかもしれません。

(構成=小林義崇)
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