日本は、買い手を増やす仕組みを構築すべき

エルメスの商品の美的価値が、“作り手”と“買い手”のコラボレーションによって生まれている点は、日本のものづくりにとっても学ぶべきヒントがあるように感じます。日本の文化政策は、作り手の保護に力を入れており、これはもちろん文化を守るうえで必要なことですが、買い手を育てることも同様に大切です。

秋元雄史さん
撮影=西田香織

私が深く関わる現代アートや工芸の世界においては、代々続く中小企業が買い手の中心層になっていますが、大企業や個人コレクターを増やす余地はまだあります。そのためには、税制などの改正を通じてインセンティブを高め、買い手を増やす仕組みを構築することが不可欠です。

現代アートや工芸の収集を教養を高める行為と同時に、“投資”としてビジネス的に捉える意識は、欧米では当たり前のものとして広がっています。欧米の富裕層は、いちはやく現代アートや工芸に投資をしていました。時代を先取りすることで、その作品がやがて何倍、何十倍の値段で売れるという例は少なくありません。また、作品を美術館に寄贈することで税制の優遇を受けることができるほか、自分や会社の名前を残そうと考える富裕層もいます。

彼ら欧米のコレクターは、自分の信じた価値観をアート作品に託し世の中に広めていくことに、ある種の“共犯者”のような喜びを感じているのかもしれません。日本でも、徐々にアート市場の規模は拡大していますが、世界シェアの1%にも満たない状況です。成長の余地は相当にあると言えるでしょう。