「面倒な工芸品」が生活に“質感”をもたらす

抽象的なアート作品と比べると、工芸品は初心者にとっても手に取りやすいと思います。工芸品はアート作品よりも価格が抑えられていて、何より、直接手に触れ、使用することができる点が、大きな魅力です。

秋元雄史さん
撮影=西田香織

今は、「100円均一」に代表されるように、さまざまな日用品が極めて安く販売され、使い勝手としても十分なものが簡単に手に入ります。しかし、個性のないものばかりに囲まれていると、どこか自分自身が無色透明に感じられてくるのではないでしょうか。自分自身が何を好きなのかを突き詰め、暮らしに“好み”や“質感”をもたせることは、人生を豊かにします。

工芸品は、大量生産された工業製品と比べると、「便利さ」という意味では劣るでしょう。工芸品の茶碗や湯飲みにしても、その美しさを保とうとすると手入れが欠かせず、壊れないように慎重に扱う必要があります。壊れても自己都合で簡単に買い替えるわけにもいきません。

でも、便利になっていくばかりの世の中だからこそ、あえて身の回りに“面倒な”ものを置くことに価値が生まれるのです。工芸品に対する愛着は時間とともに高まっていきます。同じ工芸品でも、使い手によって表情は違ってくるので、時間の蓄積がフィジカルに感じとれます。そうした工芸品を子孫まで引き継いでいけば、自分の寿命を超えて時間の連続性を感じ取ることができるでしょう。私は、こうしたものこそが、健康的な暮らしであると思っています。