人気シリーズの完結編である映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。1月23日から劇場公開の予定だったが、緊急事態宣言の発出を受け、公開は延期された。テレビアニメ版の放映開始は1995年。なぜエヴァンゲリオンは長年にわたって日本人を惹きつけているのか。精神科医の樺沢紫苑氏は「家族を巡るトラウマを描くという点で、エポックメイキングな作品だった」という――。

※本稿は、樺沢紫苑『父滅の刃 消えた父親はどこへ』(みらいパブリッシング)の一部を再編集したものです。なお劇場版の公開延期を受けてリードを修正しました(1月22日23時40分追記)。

エヴァンゲリオン初号機の巨大像
写真=Imaginechina/時事通信フォト
最初のTVアニメ放映から25年を経た今も、傑作アニメ『エヴァンゲリオン』シリーズは多くの人々を惹きつけ続けている。2016年に上海で開かれた大規模ゲームイベント「チャイナジョイ2016」にて、会場内に設置されたエヴァ初号機の巨大像=2016年7月29日

主要人物全員が「家族喪失」のトラウマを抱える

1995年放映開始のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は、謎だらけのストーリー展開、精神的に追い詰められる主人公たちのリアルな心理描写、自分に自信を持てない気弱な主人公いかりシンジ、感情を表さない綾波あやなみレイ、「ツンデレ」という言葉を生んだ惣流そうりゅう・アスカ・ラングレーなどの魅力的なキャラクター、あらゆる面で斬新な内容が様々な反響を呼びました。

作品のテーマや社会状況の反映(アイデンティティの探求、アダルトチルドレン、不登校、引きこもりなど)から、いわゆる文化人からも注目され、ふだんアニメを見ない一般人にも受け入れられ、社会的ブームを起こしたのです。2007年からは『エヴァンゲリヲン新劇場版』も順次公開され、コンビニにグッズが並んだり、パチンコになったりと、現在でも多くのファンに支持されている人気アニメです。

この複雑で壮大な物語『エヴァンゲリオン』をえて一言で説明すると、父性または母性の問題を抱えた人物たちが、それを補完しあう物語ということになります。主要な登場人物を一人ずつ見ていきましょう。

●碇シンジ

エヴァンゲリオン初号機のパイロットである主人公。4歳の時エヴァ初号機の起動実験で、母親の消滅に直面します。その後、人に預けられて育てられたため、父親に捨てられたと感じており、家族の愛情を知りません。十分な母性愛も父性愛も受けられずに育ちました。自分の存在価値に疑問を抱き、自信を持てない。繊細で内向的な性格です。

父ゲンドウは厳格で権威的。シンジが14歳の時、父から突然ネルフ本部に呼ばれ、エヴァ初号機の専属パイロットとして着任しますが、父の前では萎縮してしまい、自分の思うことも言えずに、もがき苦しみます。そんなシンジに、さらに厳しい要求をつきつける父。シンジは傷つきながらも、父に認められたいという気持ちもあり、葛藤しながらも、エヴァのパイロットとして少しずつ成長していきます。