※本稿は、樺沢紫苑『父滅の刃 消えた父親はどこへ』(みらいパブリッシング)の一部を再編集したものです。なお劇場版の公開延期を受けてリードを修正しました(1月22日23時40分追記)。
主要人物全員が「家族喪失」のトラウマを抱える
1995年放映開始のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は、謎だらけのストーリー展開、精神的に追い詰められる主人公たちのリアルな心理描写、自分に自信を持てない気弱な主人公碇シンジ、感情を表さない綾波レイ、「ツンデレ」という言葉を生んだ惣流・アスカ・ラングレーなどの魅力的なキャラクター、あらゆる面で斬新な内容が様々な反響を呼びました。
作品のテーマや社会状況の反映(アイデンティティの探求、アダルトチルドレン、不登校、引きこもりなど)から、いわゆる文化人からも注目され、ふだんアニメを見ない一般人にも受け入れられ、社会的ブームを起こしたのです。2007年からは『エヴァンゲリヲン新劇場版』も順次公開され、コンビニにグッズが並んだり、パチンコになったりと、現在でも多くのファンに支持されている人気アニメです。
この複雑で壮大な物語『エヴァンゲリオン』を敢えて一言で説明すると、父性または母性の問題を抱えた人物たちが、それを補完しあう物語ということになります。主要な登場人物を一人ずつ見ていきましょう。
●碇シンジ
エヴァンゲリオン初号機のパイロットである主人公。4歳の時エヴァ初号機の起動実験で、母親の消滅に直面します。その後、人に預けられて育てられたため、父親に捨てられたと感じており、家族の愛情を知りません。十分な母性愛も父性愛も受けられずに育ちました。自分の存在価値に疑問を抱き、自信を持てない。繊細で内向的な性格です。
父ゲンドウは厳格で権威的。シンジが14歳の時、父から突然ネルフ本部に呼ばれ、エヴァ初号機の専属パイロットとして着任しますが、父の前では萎縮してしまい、自分の思うことも言えずに、もがき苦しみます。そんなシンジに、さらに厳しい要求をつきつける父。シンジは傷つきながらも、父に認められたいという気持ちもあり、葛藤しながらも、エヴァのパイロットとして少しずつ成長していきます。