コインで床面をごしごしと削り始めた

片付けが進むとともに、室内の床がだんだん見えはじめ、Sさんは部屋の片隅に椅子を置いて腰掛け、私たちの仕事をながめるようになった。

長年、ゴミ山で覆われていた床面には、大量のカビが発生していた。それを見ると、Sさんは椅子から降りてしゃがみこみ、床に落ちていたコインでごしごしと削り始めた。だれも入り込めない、孤独な雰囲気を感じて、私はたまらない気持ちになった。

床はカビだらけだった
撮影=笹井恵里子
床はカビだらけだった

「こちらでやりますよ」

声をかけたが、Sさんは首を横に振る。そしてまたゴシゴシと一人、床をこする。そのまわりをゴキブリが走る。孤独死現場であれば殺虫剤を使うところだが、生活している環境では、むやみやたらに使えない。

作業が進んで物が少なくなると、室内が寒く感じた。電気が止まっているため、備え付けのエアコンは使えない。

「電気も使えるようにしたいですね。電気のない生活はどれくらいなんですか」

作業の途中で、平出さんが尋ねる。

「2年くらい……」とSさん。部屋の片隅には何年も使っていないという冷蔵庫がほこりをかぶっていた。

(続く。第10回は2月26日11時に配信予定)

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