駐車場の片隅で、人知れず生活をしている人々がいる。2020年1月、NHK取材班は静岡県で支援活動を行っているNPO法人「POPOLO(ポポロ)」の事務所にいた。そんな中、「家が無く車中泊をしているのですが、支援を受けることはできるのでしょうか?」と1通のメールが届く。送り主の男性はどうして「車上生活」を送ることになったのか――。

※本稿は、NHKスペシャル取材班『ルポ 車上生活 駐車場の片隅で』(宝島社)の一部を再編集したものです。

ギリギリのところでつながった支援

「初めまして。NPO法人・ポポロの鈴木です」

車に向かって鈴木さんが挨拶する。

その瞬間、運転席に座ったまま頭を下げる人の姿が見えた。男性だ。年齢は20代後半から30代ぐらいだろうか、想像していたよりも若い。時折見える横顔は、かなり骨張っているように感じられた。

「SOS」を発信した男性との接触。どういった事情から、車での生活に至ったのか
写真提供=NHKスペシャル
「SOS」を発信した男性との接触。どういった事情から、車での生活に至ったのか

「父親が暴れる人なんだね。僕の家と似ているな。僕も父親から虐待を受けていたから」

鈴木さんは自らの体験を交えながら男性と話を続ける。

男性の声はか細い。ただ、聞こえてきた会話の断片から、男性は父親からなんらかの虐待を受けたことが原因で車上生活を始めたようだとわかった。

男性の年齢は30代後半。車上生活は最低でも3カ月以上にわたっているということだった。栄養状態は悪く、ここ数日間、食事らしい食事はとっていなかったという。虐待の有無に関しては、今回の話だけでは判断できないが、少なくとも自我を強く抑えられるような家庭環境で長く暮らしていたことは間違いなさそうだいうことだった。

男性の支援を第一優先に考えたい、という鈴木さんの強い意向から、この日、私たちが男性への取材を行うことは叶わず、遠巻きに二人の様子を見守るだけに終わった。

しかし、支援に関してよい知らせがあった。鈴木さんからの連絡を受けた行政の対応が早く、男性にはその日のうちに住居が提供されることになったというのだ。支援につながり、命が救われたことは本当によかった。そう心から思った。

数日後、男性の生活状況の確認に同行できる機会が巡ってきた。男性の健康状態や気持ちが少し安定してきたようなので、NPOの活動に同行するかたちで、直接会って取材を依頼してみてはどうかという鈴木さんのはからいだった。