米ロサンゼルスの山火事は3週間あまり続き、1月31日にようやく鎮圧された。この火災でテスラなどの電気自動車(EV)が避難・復旧の妨げになっていると現地メディアが報じている。テスラは現地で高いシェアを誇るが、災害時に露呈した弱みが「EV離れ」を招いている――。
パシフィック・パリセーズの山火事で全焼したテスラ=2025年1月8日、アメリカ、ロサンゼルス
写真=Sipa USA/時事通信フォト
パシフィック・パリセーズの山火事で全焼したテスラ=2025年1月8日、アメリカ、ロサンゼルス

カリフォルニアで米平均の3倍売れるテスラ

ロサンゼルス近郊のフリーウェイを走れば、数分に1台は必ずと言っていいほどテスラを見かける。だが、テスラをはじめとするEVの高い普及率は、ロサンゼルス山火事の際、避難や復旧の妨げとなった。

米経済メディアのブルームバーグによると、2024年10月時点で、ロサンゼルス地域だけで43万台を超えるテスラが走行している。

急増の背景は、州の環境政策による後押しだ。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は2年前、州内で販売される全ての新車を2035年までにEVなどゼロエミッション車に切り替える行政命令に署名。この政策が追い風となり、テスラの販売は一段と加速した。

世界最大の金融情報会社の一つ、S&Pグローバル・モビリティの調査によれば、同地域におけるテスラの新車登録シェアは全米平均の3倍と極めて高い水準にある。カリフォルニア新車ディーラー協会の統計でも、2024年9月までの実績として、テスラのSUVモデルである「モデルY」が州内での新車販売台数で首位に立っている。

充電スタンドは避難する人々で大渋滞

だが、カリフォルニア州で1月に発生した大規模な山火事では、テスラオーナーたちは身の危険を感じたようだ。混乱する現地の状況を、平時はロサンゼルスの娯楽情報を発信している人気YouTubeチャンネル「JPland21」(登録者数120万人)が詳しく伝えている。

同チャンネルの投稿者は、パサデナで発生した火災が自宅からわずか20キロ弱のところにまで迫る中、早めの自主避難を決めたという。

だが、所有するテスラに飛び乗ると、予想外の事態に気づく。バッテリー残量は8パーセントのみで、走行可能距離はわずか26キロの状態だった。多くの避難車両で渋滞する主要道を抜けることを考えれば、かなり心許ない数字だ。

充電をしようとスタンドへ向かった投稿者だが、慌てたテスラオーナーたちが詰めかけたスタンドには長蛇の列ができていたという。20基ほどの充電器がある大型の施設でさえ、テスラやアメリカの新興EVメーカー・リビアンの車両など6台が場外で待機する状態だった。時間が経つにつれ新たな車両が続々と押し寄せ、混雑はひどくなる一方だという。

追い打ちをかけたのが、最大風速約36m毎秒の突風だ。台風の基準とされる17.2m毎秒を大幅に超える。バーバンク地区では送電線が倒れ、広範囲で電力供給が止まった。送電線のスパークで新たな火種が発生するのを防止すべく、意図的に送電を中止した地区もある。投稿者は当時の混乱を、「(充電スタンドではない一般の)店舗の多くが停電で営業できず、店内は真っ暗。決済システムすら使えない状況です」と語る。街中が混乱状態にあった。