発火すると有毒ガスが周囲に漏れ出す
消防当局は、バッテリーという難敵に苦慮している。EV普及促進団体のプラグイン・アメリカでシニアポリシーディレクターを務めるイングリッド・マルムグレン氏は、ワシントン・ポスト紙に対し、EVの車両火災の特性を次のように語る。
「通常のガソリン車と違い、バッテリーパックが車体の奥に設置されていることが多いのです。そのため消火剤が届きにくく、消火作業は難航し、長時間燃え続けてしまう傾向にあります」
専門家によると、危険性は大きく分けて2点ある。1点目は、ショートによりバッテリー内部が異常な高温に達し発火すると共に、有毒な可燃性ガスが放出される点だ。さらに2点目として、バッテリーに使用されているリチウムやコバルト、ニッケルなどの重金属が周辺環境に漏れ出す懸念がある。
危険なバッテリー火災に対応するため、米環境保護庁(EPA)は専門チームを立ち上げた。同庁の地域インシデントコーディネーターを務めるピート・グリア氏は、対応手順について「損傷したバッテリーを発見した場合、まずはサーマル・ブランケット(フィルムにアルミを蒸着した耐熱シート)で包んで安全な場所へ運び、そこで電圧を下げる作業、いわゆるディエナジャイズを実施します」と説明する。
隊員の安全を確保しながらも速やかにバッテリーを鎮火することが求められており、大規模災害に対応する消防士たちにとって大きな課題となっている。
災害の多い日本にEVは適しているか
環境対策の切り札として期待されたEVシフトだが、思わぬ災害時の弱みが明らかになった。先進性でもてはやされたテスラも例外ではない。また、同社の故障率の高さはむしろ避難の際、不安要素になるだろう。
避難にあたっては、充電上の課題を甘く見ることはできない。数分で給油完了できるガソリンと異なり、高速充電が可能なタイプのスタンドでも30分前後は足止めを食らうことになる。この30分が避難者の命運を握ることもあるだろう。
カリフォルニア州は2035年までに新車販売をEVに限定する方針であり、日本も基本路線としてはEVシフトを推進する方向だ。だが、地震や火災など災害が多い日本では、より慎重な検討が求められる。
被災地では徒歩移動が基本とされるが、緊急時にはクルマが命を救うこともある。日本の内閣府資料によると、東日本大震災では57%が必要に迫られ自動車で避難している。徒歩では安全な場所までの避難が難しいなどの判断があったといい、自家用車はライフラインとして機能する実態が明らかになった。
災害対策を含めた包括的な議論なしには、EVシフトは机上の空論に終わりかねない。環境保護は重要だが、それは市民の安全が確保されてこそ意味をなす。テスラやEVの普及が進むロサンゼルスで起きた山火事は、現地の市民のあいだでも、先進的な車両に潜む課題を再考する機会となっているようだ。