自宅に給電可能なはずのサイバートラックが使えない

避難車両に適さない以外にも、問題はある。EVは搭載の大型バッテリーから家庭へと電力を供給可能なモデルも多く、非常時の家庭用電源として期待されている。

だが、故障やリコールが相次ぐテスラは、信用できるバックアップ電源とはなり得ないようだ。今回のロス山火事で痛い目を見たという顧客の事例を、自動車専門メディアの米トルクニュースが詳しく伝えている。

ロサンゼルス在住のエリック氏は、テスラのサイバートラックのラインナップのなかでも、停電時に家庭への給電が可能な最上級グレード「ファウンデーション・シリーズ」を購入。特別仕様車として、通常価格に2万ドル(約309万円)を上乗せで支払ったという。

加えて、給電機能を使うために必要な壁面充電器の設置工事費用として、2000ドル(約31万円)を投資した。ところが、設置後に充電器の不良が発覚する。その後5カ月にわたってテスラに交換を求め続けたが、テスラ側は適切な対応を取らなかったという。

チャージスポットで充電中のサイバートラック
写真=iStock.com/MargJohnsonVA
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交渉が続く中、今年1月になってロサンゼルスでの山火事が発生。エリック氏の自宅は実際に停電に見舞われたが、非常時の備えであったはずの給電機能が使えないまま、「暗闇の中でじっと座っていることしかできなかった」という。この経験が「最後の一線を越えた」として、テスラの提訴を決意した。

エリック氏はこれまで熱心なテスラファンであり、1台1000万円を超える同社の車両を4台も所有してきた。しかし、今回購入したサイバートラックは、納車からわずか半年で6回もの整備が必要となり、そのうち2回はモーター自体の交換を要するなど、重大な不具合が続いた。

相次ぐ不具合と顧客対応の不備に業を煮やしたエリック氏は、保有するテスラ株をすべて売却。さらに、問題の多いサイバートラックと、所有する別車種のモデルSプラッドについて、買い戻しを求める訴訟を起こす考えだ。

街の復旧の妨げになっている

こうして所有者の防災プランに悪影響を及ぼしたテスラだが、影響はオーナー以外の一般市民にも及ぶ。ロサンゼルス山火事では、テスラをはじめとする焼け残ったEV車両の処理が新たな課題となり、復旧を妨げているという。

ブルームバーグは、「燃えるテスラ車で有害物質の汚染が悪化 ロス住民の帰還を遅らせる」と題する記事を掲載。被災地の清掃作業が、焼け焦げたEVなどにより難航していると報じている。

カリフォルニア州議会議員のジャッキー・アーウィン氏は、同メディアの取材に対し、「避難を余儀なくされた地域にはEVが数多くあった」と述べる。搭載のリチウムイオン電池は有害物質として扱う必要があり、専門的な除去作業が求められる。そのため、被災者の帰宅にも遅れが生じていると記事は指摘する。

このほか、テスラ社が手がける家庭用の定置型・大容量蓄電システム「パワーウォール」も火災の長期化を招く一因になったという。アーウィン氏は、「消防士の報告では、特にパワーウォールを設置した家屋の近くで、リチウムイオン電池が長時間燃え続けた」と明らかにした。住宅への電力供給を担うパワーウォールは、大型のリチウムイオン電池を内蔵している。