火が迫るなか充電に35分間かかった

募る焦りを堪えながら順番を待ち、何とか充電を済ませた投稿者。ほぼ空の状態からフル充電に要した充電費用は12ドル(約1900円)と、ガソリンより安価だったようだ。

だが、電費の良さはここでは問題ではないだろう。火の手が近隣地区に迫るなか、充電に費やしたという35分間でずいぶんと肝を冷やしたようだ。「昨夜のうちに充電すべきでした。火災がここまで近づくとは想像もしていませんでした」と投稿者は反省の弁を述べている。

ガソリンのように素早く給油できないEVの、その弱みが露呈する形となった。避難を諦め、うち捨てられたテスラ車もあるようだ。米ニューヨーク・タイムズ紙の現地取材によると、パシフィック・パリセーズ地区では、サンセット大通り付近のパリセーズ・ドライブ沿いに、灰に覆われた数十台の車が今も放置されたままの状態だという。

焼き尽くされた車両の中には、テスラの上級SUVモデル「モデルX」の姿もあった。乗り捨てられたこの車両をのぞき込むと、車内には「ソーニャ」という名前の入ったピンクのバックパックが見えたという。一家はクルマが炎に包まれる前に逃げたようだが、避難の際の切迫した状況をうかがわせる。

2020年のボブキャット火災は、4万6000ヘクタール以上を焼き尽くした
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EVは手放したい…周辺住民が語る見直し論

こうした災害時の運用を念頭に、果たしてEVの所有は安全なのか、懸念の声が高まっている。ロサンゼルス・タイムズ紙は、カリフォルニア州で相次ぐ山火事により、EVの所有者や購入予定者の間で新たな不安が広がっていると伝えている。テスラ以外のEVも懸念の対象だ。

サンフランシスコ・ベイエリアの丘陵地帯に暮らすバル・チポローネ氏は、1回の充電で約350キロ走行できる日産リーフを保有している。だが、同紙に対し、災害時の安全性を考え、手放す決断をしたと語る。次はEVではなく、ハイブリッド車かプラグインハイブリッド車を購入するつもりだという。

「災害時、避難先がどれほど遠くになるかは、予測が難しいです。最初は通勤用として十分だと思っていたのですが、緊急時にはもっと遠くまで逃げる必要があるかもしれないと気づきました」と語るチポローネ氏。

ロサンゼルス中心部に接するグリフィス・パーク周辺在住の弁護士マシュー・バタリック氏も、EVに対する信頼性を再考している最中だ。同紙の取材に応じ、「避難ルートにあるEV充電スタンドは大混雑が予想され、充電待ちで貴重な時間を失うことになります。ガソリンスタンドなら、その心配は少ないですから」と揺れる心境を明かした。

バタリック氏は続けて、「さらに問題なのは、電力会社が火災予防や賠償リスク回避のため、電力供給を停止する可能性があることです。こうした懸念は、丘陵地帯の住宅地では今後も続くでしょう」と心情を吐露している。