私はこれまで生前・遺品整理会社「あんしんネット」の作業員として、多くのゴミ屋敷を整理してきた。ゴミ屋敷清掃は過酷な仕事だが、遺品整理の第一人者である石見良教さんはどんな現場でも怯まない。なぜそこまでの熱意をもてるのか。のべ5時間を超えるインタビューで「遺品整理人」の覚悟に迫った――。(連載第12回)
人生でこんなにエロ本を見たのは初めてだった
普段、私は「エロ本」を目にする機会はない。ところが、独身男性が住むゴミ部屋を片付けていると、必ずといっていいほど目にする。10冊程度であればまだ理解できるが、数えきれないほど出てくる家が少なくない。今月片付けた50代男性の住むゴミ屋敷では、ざっと1万冊以上のさまざまな本があり、その5分の1、つまり2000冊程度が成人向け雑誌、いわゆる「エロ本」だった。たぶん人生でこんなにエロ本を見たのは初めてだ。
石見「たしかに男性のゴミ部屋には多くのエロ本が存在しますね。ゴミ部屋という閉ざされた空間で、イメージだけが膨れ上がり、多く購入しているのかもしれません。恋愛の機会がないのですから、そのような視覚に訴えるものに頼らざるを得ないんでしょう」
その50代男性宅にあるエロ本のほとんどは、“しばられた女性”が表紙を飾っていた。彼はおだやかな雰囲気で、部屋の整理について尋ねる私の質問にも、ていねいに答えてくれた。女性をしばるような乱暴さは感じられない。
他人には見られたくない“宝の山”をどうするか
石見「しばる系のエロ本が多いのも、ゴミ部屋の住人にはよくあるケースです。ゴミ部屋の整理で、亡くなった方ではなく生きている男性が依頼者である場合、ナヨナヨしているといいますか、性格的には“気の弱い人”が多い印象です」
気が弱くても、あれだけ大量の本を購入する「所有欲」はすさまじい。
現代ではネット配信が主流で、今後大量のエロ本が出てくるゴミ屋敷は少なくなるだろう。ただ、エロ本に限らず、他人には見られたくない“宝の山”を持つ人は多い。私も今、自分が突然死したらと考えると、誰の目にも触れてほしくないものがいくつかある。周囲が認識する私のイメージと一致しないからだ。けれど自分にとっては大切な物だから、それを今すぐ処分することはできない。