一戸建てのゴミ部屋で、居住者は孤独死していた

一つひとつの現場、特に精神的に負担がかかる現場ほど、作業完了とともに忘れるようにしていると、石見さんは言う。

石見「われわれの作業は職人作業と同じで、一つの現場には作品の意味合いもあります。自分の中で仕事が完結していれば終わりにできる。しかし悪い現場ほど記憶に残ってしまう」

50代男性宅のキッチン。ゴミに埋まって使えなくなっていた。
撮影=笹井恵里子
50代男性宅のキッチン。ゴミに埋まって使えなくなっていた。

石見「ある一戸建てのゴミ部屋整理で、後悔したことがあります。家主が生存していて、本人の依頼で始まった作業だったのですが、1階部分の整理が完了したところで2階はしなくてもいい、と言われました。2階には大量のゴミが残っていましたが、本人がOKを出してくれなければ作業を進められないのでやむなく手を引きました。

しばらくして、近くの民生委員さんが見守り活動の一環で声をかけると、その家から返事がない。なんとその人は、室内で孤独死していたんです。民生委員さんは責任を感じて仕事を辞めてしまいますし、われわれももっといろんな職種の人たちを巻き込んで、本人を説得し、ゴミ部屋を片付ければよかったと反省しました」

生前整理であれば、生活を再建できる可能性がある

昨年末、私が関わった現場でも、生活再建への道のりがついていない状態で、ゴミ部屋整理の作業を終えることがあり、とてもつらかった。いくら本人が「これでいい」と言っても、これでは人間としての生活が保証されないのではないか、と思った。

孤独死現場では「遺品整理」しかできないが、生前整理であればゴミ部屋に住む人の生活を再建できる可能性がある。だから生前整理の依頼があること、その仕事に関われることには、希望を感じる。

石見「そう。『生前整理』は将来の自分のために整理を行うことですし、それから高齢者が住みやすいように環境を整える『福祉住環境整理』も、まさに生き続けるための片付けといえるでしょう。ですから生前整理や福祉住環境整理を行う際に、『このままでは孤独死します』というようなゴミ部屋を見たら、『このままではまずいから物を捨てよう』と本気で説得します。うちの作業員でも遠慮がちに言うことがありますが、それではダメです。ゴミ部屋化してしまう人は孤独に生きているから、話しかけられると案外うれしいものなんですよ」