「ゴミ屋敷化」を防ぐにはどうすればいいのか。原因は「物をためこんでしまう」という性格だけではない。「片付けられない」「整理整頓が苦手」という精神障害を抱えることが多いのだという。取材事例をもとに、医師らに対策を聞いた――。(連載第11回)

「部屋全体」を見通しての整理整頓が難しい

前回(連載第10回)、発達障害の一種であるADHD(注意欠如・多動性障害)の患者宅がゴミ屋敷になりやすいと述べた。ADHDの患者は、一つのことに集中するのが難しいため、長時間におよぶ片付けや「部屋全体」を見通しての整理整頓が難しいのだ。

仮屋暢聡医師(まいんずたわーメンタルクリニック院長)が、13歳でADHDの男の子を例に挙げた。

「食後に服薬の必要があって、親御さんが『食べたら飲みなさい』と伝え、食事と一緒に目の前に薬を用意しても目に入らない。本人の関心があるところにしか視点がいかないんですね。息子さんにできることをさせてほしいと伝えているので、ご両親は本人の部屋に入らないのですが、そうなると当然自室は汚くなります。その子は大のゲームが好き。すると、ゲーム関係はきれいに揃えるのですが、それ以外の勉強道具などはごっちゃになっているんです」

男の子は有名進学校に通っているというから、一般的な知能レベルが低いわけではない。

一つのものにこだわると、10年でも20年でも使い続ける

私が片付けをした孤独死現場でも、家全体はゴミ屋敷なのに、一部分が異様なほどまでに整理されていたことがあった。居住者はすでに亡くなっているため、その人がADHDだったかどうかはわからないが、例えばこんな具合だ。

同じ商品の豆腐やヨーグルトの空カップがきれいに洗われ、種類別に何十個とそれが積み重ねられている。スーツを購入した際の空き箱に「ボタン」「ネクタイ」「端切れ」などのラベルが貼られ、その通りに分類され、押し入れに収まっている。しかもその空き箱に表示された“番号順”だ。

写真H:台所には豆腐パックがきれいに洗われて何十個と積み重ねてあった。
台所には豆腐パックがきれいに洗われて何十個と積み重ねてあった。

しょうゆ、油、ソースなどのパックはそのまま置かずに、牛乳パックの空き箱を半分に切って、それを下方の受け皿にする。牛乳パックのもう半分を、その上方にかぶせて、「しょうゆ」「油」などとラベルを貼る(思わず、「見ればしょうゆとわかる」と、つぶやいてしまった)。

「こだわりです」と、仮屋医師は言う。

【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら
【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら

「一つのものにこだわったら、それを10年でも、20年でも食べるし、使い続けるというのはある。よくADHDの患者さんに説明するのは、自分がこういう障害だとわかったら、自分自身の特性を知りましょう、と。診察でいろいろなテストを行い、あなたの特性で良いところ、悪いところを話します」