ADHDでは20代でもアルコール依存症に陥りやすい

実はゴミ屋敷の現場では、しばしばお酒の空き瓶が落ちている。そのため、アルコール依存症とゴミ屋敷に関連があるのではないか、と私は感じていた。

取材した現場の一例。玄関までゴミが積み上げられていて、崩さなければ家の中に入れなかった。(撮影=笹井恵里子)

仮屋医師によると、アルコール依存症をはじめ、タバコやギャンブルなどの“依存症”のベースには発達障害が潜んでいることがあり、それに関連して本人の特性から「ゴミ部屋化しやすいのではないか」とのこと。

「ADHD(発達障害)の人はうまく頭が整理できない、物が片付けられないというのがある。アルコールが入るとそれが増幅される。またアルコール依存症は40~50代で陥りやすい精神疾患だが、ADHDの人は20代でも多く、さまざまな問題が長期化しやすい」

ADHDの治療には、過集中や衝動性を抑える薬物治療が有効だ。子供、大人の患者ともにアトモキセチン(商品名ストラテラ)、メチルフェニデート(商品名コンサータ)、グアンファシン(商品名インチュニブ)が使用される。

ADHD、うつ病、認知症、統合失調症などの「症状の一つ」

「本人の特性で悪いところを解決するために薬がある、と患者さんには説明します。服薬によって普通の思考ができるようになっていきますが、薬は自転車の“補助輪”のようなもの。病が治るというより、補助輪がなくても走れるようになれば薬はいりません。

ADHDは一つの例ですが、つまりゴミ屋敷は単純に物をためこむケースばかりでなく、むしろそれ以外のなんらかの問題を抱えている人のほうが多いのではないでしょうか」(仮屋医師)

ADHDの人の部屋の例
画像提供=仮屋暢聡医師
ADHDの人の部屋の例。片付けられない様子がみてとれる。

本連載第3回で、一般に価値のない物でも捨てるのに著しい苦痛を感じる「ためこみ症」という病気を紹介した。ためこみ症は、これ自体が精神疾患の一つである。しかし他の精神疾患とも深く関連し、ADHDをはじめ、うつ病、認知症、統合失調症などの「症状の一つ」に“ためこみ行動”があるのだ。九州大学病院精神科の中尾智博教授に聞いた。

「認知症であれば認知機能そのものが落ちて、物を所有していることを忘れているため、単なる整理整頓とは違うアプローチが必要でしょう。統合失調症の人は、妄想や幻覚、例えば“処分すると大変なことになる”などという思い込みがためこみ行動につながっている可能性がある。そのため統合失調症の治療が優先されます。うつ病も、エネルギーや気力が低下したために物を捨てられなくなっている可能性が高いので、やはりうつ病の治療が必要です」