人は生きていればゴミを出し続ける。あなたの部屋には今、どれくらいの不要なものがあるだろう。もしも今日、自分が死んだとしたら、周囲にはその物の始末にどれほどの負担をかけるだろうか。できれば大切な人に、死後の“物の行き先”を伝えておきたい――。(連載第13回)

3LDKに一人で住んでいるが、室内は足の踏み場がない

「私が死んだら、遺品整理をお願いしたい」

東京都内の一戸建てに一人で暮らす60代のNさんが、生前・遺品整理会社「あんしんネット」の事業部長である石見良教さんにそう連絡したのは、5年前の12月のことだった。Nさんはがん闘病中で、抗がん剤治療のため都内に入院していた。石見さんは病院までたずねて、Nさんから詳しく依頼内容を聞いたという。

石見良教さんの現場での様子
撮影=松波賢
石見良教さんの現場での様子。

石見「Nさんの身内には唯一お兄さんがいたのですが、お兄さん夫婦に迷惑をかけたくないと。退院後はヘルパーなどの介護を受けながら、引き続き一人で生活したいという希望がありました。ゴミ部屋化しているから恥ずかしいけれど、自宅の鍵を預けるので、今すぐここを見てきてほしい、とお願いされたんです。そして退院後にスムーズに暮らせるように、すべての部屋の整理を、また自分に万が一のことがあったら遺品整理も、という依頼でした」

【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら
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Nさん宅は1階がキッチン、ダイニング、リビングに和室6畳、2階が洋室+和室という造りで、一人住まいとしてはかなり広い3LDKだ。当時の室内写真を石見さんに見せてもらうと、物が“山積み”ではないが、“足の踏み場がない”状態。2階の和室以外は、床面が見えず、大量の洋服や大きな紙袋が放り投げられていた。

Nさんから連絡がくることは二度となかった

石見「われわれの仕事では、まず『作業段取り書』を作るんです。それでNさんに作業日までに『これは捨てないでほしい』と思われる物をリストアップしてメモ書きでいただけるようお願いしました。例えば衣類であれば、必要な衣類は『貴重品ダンボール』を作ってそこに確保、処分する衣類については90リットルのビニール袋にまとめていくんです。本や雑誌類も同様ですね。処分か保存か迷う場合は、一つひとつ依頼者に確認します。Nさんとは何度か整理に関する打ち合わせをして作業内容をつめ、あとは作業日を決めるということで連絡を待つことになりました」

しかしその後、Nさんから連絡がくることは二度となかった。

石見「どうしたのかなと思っていました。すると半年後、Nさんのお兄さんから電話があったんです。私へ依頼した一カ月後、Nさんは退院することなく、病院で亡くなったことを聞きました。驚きましたよ。大変残念でした。お兄さんはNさんが私に室内の整理を依頼したことは知らなかったのですが、Nさんの持ち物に『作業段取り書』を見つけ、『妹の家を整理してもらうのは、あなたしかいない』と言われたのです」

もちろん石見さんは、ほかの作業員とともにNさん宅の遺品整理を行った。「やっぱり生きている時から知っている間柄だから、こういう風に整理をしてあげたいという気持ちがあった」と、話す。