赤ちゃんポストに預けられた子供は施設で育つ場合もあれば、里親に引き取られ、真実告知を受けるまでは、育ての親を生みの親と思い育つ子もいる。日本初の赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を設立した田尻由貴子さんは「以前、里親に育てられて5歳になった男の子が訪ねてきてくれた。その子に言われた予想外の一言を私は生涯、忘れることはない」という――。

「僕は、田尻さんから生まれたんだよ」

前編からつづく)

「僕は慈恵病院で、田尻さんから生まれたんだよ!」

慈恵病院の赤ちゃんポスト、「こうのとりのゆりかご」に預けられた赤ちゃんが5歳になり、田尻由貴子さん(75歳)を訪ねてきた時のことだった。

民泊「由来House」を運営する、元慈恵病院 看護部長の田尻由貴子さん
民泊「由来House」を運営する、元慈恵病院 看護部長の田尻由貴子さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

田尻さんは「ゆりかご」の創設時から8年間、責任者として関わっていた。その男の子が特別養子縁組をした両親に連れられて、田尻さんの前にやってきたのだ。

「預けられた日にベッドから抱き上げたちっちゃな赤ちゃんが、体格もしっかりとした男の子に成長していて……。うれしくて興奮冷めやらぬ時に、こう言われて、涙が流れ出そうになりました。生涯、忘れることのできないほどの感動でした。だけど、違うよ、産んでくれたお母さんがいるんだよって……」

生みの親の存在を知らせる「真実告知」

両親は「真実告知」で、きっとこう伝えたのだろう。「田尻さんがいたから、今のあなたがあるんだよ」と。

5歳ならではの無邪気な発想に、彼が惜しみない愛情の下で育まれていることを、田尻さんは十分に感じた。信頼関係が確かに築けているからこそ、両親は5歳の子に「私たちは、実の親ではない」ことを、きちんと伝えることができたのだ。

「ゆりかご」は、命を繋ぐシンボル――。男の子のキラキラ輝く瞳に、田尻さんは改めてそう思わずにいられなかった。