「お客さんの懐具合で料金を倍に盛るなんて」

石見「通常は遺品を見ながら持ち主の人生をうかがい知りますが、生前にお願いされた場合は、ご本人に直接聞けます。ですからその人の人生がより深くわかり、大事な物の区別がつきやすいですね。生前にお願いされた遺品整理を行っていると、まるで自分の家族の遺品を整理している気持ちになります」

あんしんネットが手がけた作業現場。床の上にゴミが積み上がっている。
あんしんネットが手がけた作業現場。床の上にゴミが積み上がっている。(写真提供=あんしんネット)

身内でなくても、自分を気にかけ、心配してくれた作業員の手によって死後の整理が行われるのであれば、幸せだろう。

石見さんは、近年、「遺品整理業」に悪徳業者がはびこる現状に胸を痛めている。多くの依頼主は料金相場を知らないため、一部の業者が依頼主の懐具合に応じた“料金の上増し”をしているのだ。石見さんが「あんしんネット」の前に勤めていた会社も、いわゆる悪徳業者であった。

石見「前の会社では、現場でお客さんと話しながら見積もりをとる時に、全社員が必ず社長に連絡をしなければならないんです。例えば物量が2トン、作業員4名が必要な量で、30万円と見積もったとします。そうすると、『2、4、30』と見積もり中に電話で社長に報告する。社長は『金をもっていそうか?』と尋ね、そうであれば電話口で倍の金額を提案してくるんです。おかしいでしょう。お客さんの懐具合で料金を倍に盛るなんて、やってはいけない」

絶対に悪徳業者にならないという信念で立ち上げ

石見さんは、その会社の運営に疑問を感じ、1年半程度で退職した。

石見「それで今の会社で整理業を立ち上げることとなり、『あんしんネット』ができたんです。絶対に悪徳業者にならないという信念をもっていましたが、民間ですから利益をあげなければならない。ですから人件費、車両費、処分費など“必ず発生する費用の原価”を踏まえ、そこから何%の上乗せまでが適正なのかを考えました。

明確な料金体系をつくったので正々堂々と行政に売り込みにいって、やがて包括支援センターからも依頼をいただくようになりました。最近は悪徳業者からの不当請求に悩んだ依頼者から、連絡をいただくことも増えています」