きつい、汚い、危険。この「3K」で究極の仕事といえばゴミ屋敷清掃だろう。山積みのゴミを片付けるだけならまだいい。ときには虫がわいている箇所に手を突っ込み、人の便や尿さえも処理しなければならない。誰もやりたくないが、誰かがやらなければいけない。そんな仕事にたずさわる人たちは、日々なにを考えているのか。私は、彼らと共に働き、その世界を見たいと思った――。(連載第1回)(取材・文=ジャーナリスト 笹井恵里子)
アールキューブ株式会社 あんしんネット事業部 部長の石見良教さん。「遺品整理人」の命名者でもある。
撮影=今井一詞
アールキューブ株式会社 あんしんネット事業部 部長の石見良教さん。「遺品整理人」の命名者でもある。

なぜこのような場所を「汚い」と感じないのか

ドアを開けて絶句した。

古びた一軒家の室内には大量の砂利や鳩の羽、動物の排泄物が染み込んだ紙類が散らばっている。人が住んでいたとは思えなかったが、ここにはたしかに高齢夫婦が住んでいた。妻が病気で入院した数日後に、夫が風呂場で亡くなったという。かねてより近隣から臭いの苦情があったため、地域の包括支援センターが見に行くと、部屋中に物があふれていたそうだ。

【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら
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いわゆる“ゴミ屋敷”をテレビで目にしたことがある人は多いだろう。しかし、それを実際に目の当たりにした時の衝撃はすさまじい。「なぜ?」という言葉が頭にうずまく。高齢者とはいえ認知機能が低下していない正常な人が、どうして自分の寝る場所さえなくなるほどの、大量の物をためこんでしまうのか。そしてなぜこのような場所を「汚い」と感じないのだろう。

近年、身体機能が低下した高齢者、社会から孤立した独居者らが身の回りの片付けができなくなり、整理専門会社へ物の仕分け・分別を依頼するケースが急増している。私は生前・遺品整理会社「あんしんネット」の作業員としてこの住居に足を踏み入れた。

現場で釘を踏んで、左足のかかと付近から出血

整理業は、身の危険を伴う過酷な仕事だ。

かつて同社に勤務していたAさんはこの仕事がきっかけで義足になった。現場で釘を踏んで左足のかかと付近から出血し、作業翌日に足が腫れて40度の発熱。数日後に病院を受診すると「雑菌の混入」と診断され、抗生剤の点滴や患部の洗浄などが施された。それから3週間、懸命の治療が行われたものの回復せず、やがてAさんの命に危険がおよぶ状態に……。やむなく左足の大腿部から切断となったという。

実は私が“ゴミ屋敷の整理(掃除)”の仕事に惹きつけられたのは、およそ4年前のAさんとの出会いがきっかけだった。

「今まで自分は好き勝手なことをして生きてきたから。この仕事で社会に恩返しをしたい」

Aさんは繰り返し私にそう話してくれた。