足を床上に引っ張りあげる時に足首から出血した
片足がズボッと床にはまる。片付けの途中だったお玉や鍋も音を立てて床下に転落していく。ミミズがうごめく床下に手を突っ込んで、それらを拾い上げた。靴の中に砂利が入り込み、足を床上に引っ張りあげる時に足首から出血した。
Aさんのことが頭をよぎり、自分も足を切断することになったら……という恐怖に支配されて身動きがとれなくなった(ちなみにこの作業の翌日、実際に私は発熱した。この傷が原因だったのではないかと今でも思っている)。
その時、2階から声がかかった。
「笹井さーん、2階から布団を落とすから、それを玄関近くにまとめて運んでくれるーー?」
あんしんネットで唯一の女性社員であった彼女の明るい声に心が和み、了承の返事をする。すると、丸められた布団が階段をつたって転がり落ちてきた。
目を凝らすと、なんと「人の大便」がくっついている
二人暮らしだったとは思えないほどの何枚もの布団。簡単にたたんで玄関近くに持っていく。高さ1.5メートルぐらいの布団の山が4列できた。小さな毛布類はビニール袋に入っているが、どうも臭う。目を凝らすと、なんと「人の大便」がくっついているではないか。あとからほかの作業員に尋ねると、これまでの2日間の作業では、1階の床にも大便が転がっていたという。
エアコンの中には鳩の羽がびっしり詰まっていた。この家で亡くなった夫は、屋外で鳩に餌やりをしていたが近隣の飲食店から苦情がきて、室内であげるようになったそうだ。「室内で鳩に餌をあげる」という行為に仰天してしまう。猫も10匹飼っていたというが、その日は2匹しか生存確認できなかった。
「人に何が起きたら、家がこういう状況になってしまうんでしょうね……」
近くにいたアルバイトの男性作業員がポツリとつぶやく。私も片付けをしながらもの悲しい気持ちに陥った。
こんな家では、とても安らげないではないか。(第2回に続く)