「幼い頃に描いた思い出の絵」は処分できない
ある孤独死現場で、亡くなった家主の男性が書いたと思われる「好きだった女性への恨み文」を見つけた。作業を見守る男性の母親にとても見せられなかった。息子が他人を恨み、孤独の中で死んだであろうこの文書を見せることは、気丈に明るく振る舞う高齢の母親に、苦しみしか与えない。
私がそう振り返ると、石見さんが「反対に家族に知らせてあげたほうがいいケース」を紹介してくれた。
石見「若くして離婚し、その後一人暮らしをしていた男性が孤独死したんです。離れて暮らす元妻と子供からの整理依頼で、過去の嫌な思いしかなかったのでしょう。『あの人は死んでよかった』『物はすべて処分してください』と言う。けれどもわれわれが整理をすると、幼い頃の子供が描いた思い出の絵が大切に保存してある。
そういう時、私は手紙を書くんです。『あなたはすべてを処分してくださいと言いましたが、私にはできませんでした。それは最後まであなたのことをお父さんは思っていたと感じたからです』と記して、その物と一緒に送る。すると大抵の人は、気持ちが変わります」
それを聞いて、“遺品整理人”の仕事が少しわかった気がした。
故人や依頼人の心をつかまなければ「整理」にならない
そもそも遺品整理とは、亡くなった人(故人)の持ち物の整理を行うこと。最近は依頼のうちゴミ部屋化した家、それも孤独死現場が多いから、「整理=ゴミ部屋、あるいは孤独死現場の清掃」という構図だが、本来の仕事は“掃除”ではない。
石見「物の整理は簡単にできるんですよ。でも、最終的に整理してあげたいのは、残された家族の“心の整理”なんです。だから現場で故人の思いを読み取るようにしています。窓からの風景を見て、目の前に桜が咲いていればこの角度に座って見ていたんだろうな、ここで酒でも飲んでいたんだろうなとか、イメージを展開させていく。想像力を働かせ、故人や依頼人の心をつかまなければ本当の整理をしたことにならない」
石見「ゴミ山になるのも孤独死してしまうのも、どこかに原因があるはずです。だから現場に入ると、なぜこの人は孤独死してしまったんだろう、逃れる術はなかったんだろうかといつも考えますね。
殺人現場も印象に残ります。母親が育児に疲れて子供を殺めた事件や、子供が両親を殺害した現場の特殊清掃(遺体でダメージを受けた室内の原状回復をする作業)を行ったことがあるんです。殺人はナイフのケースが多いので、あたり一面に血がばーっと飛び散る。その拭き取りをしていると、むなしさを感じます。『なぜ』『どうして』という言葉で頭の中がいっぱいに……」