世界の大富豪が資金を出す研究テーマとは

「ロンジェビティ」をテーマにしたものが世界中で流行っている。直訳すれば長寿だが、単に「寿命を延ばす」のではない。心身ともに若々しく活動できる期間、すなわち健康寿命を延ばし、質の高い人生を長く楽しむという概念である。

京都府立医科大学副学長で、医学研究科教授の八木田和弘氏がその最前線を教えてくれた。

シリコンバレーの大富豪たちは莫大な資金を調達して、研究者たちに「賞金」を設定し、若返りをテーマとした研究を加速しているという。例えばiPS細胞技術を使って細胞を若返らせたり、老化した細胞を薬によって除去したりといったことだ。

「しかし、これらはもちろん一般的にまだまだ利用できる状況ではありません」と、八木田氏。

笹井 恵里子(ささい・えりこ)
笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト。「サンデー毎日」記者を経てフリーに。著書に『老けない最強食』(文春新書)、『国民健康保険料が高すぎる!保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)などがある。

そこで誰でも取り組める「生活習慣」のトピックを紹介したい。ロンジェビティの3本柱、つまり健康長寿に影響を与える代表的な生活習慣といえば、食事、運動、睡眠である。

「食事なら血糖コントロールをし、抗酸化食品を摂り、腸内環境を整えることが重要ですし、運動なら筋肉量をアップさせることや、座りっぱなしを避けてよく動くことが健康長寿に結びつきます。それはみなさん、ご存じの人が多いでしょう。しかし、睡眠についてはいかがでしょうか。実は『睡眠時間』以外に、とても重要な要素があります」(八木田氏、以下同)

睡眠に関して有名な雑誌『Sleep』に2024年、「睡眠が規則的でない人ほど早死にのリスクが高い」ことが発表された。八木田氏が解説する。

「英国の約6万人を対象にした研究で、睡眠の規則性が高い群は、最も規則性の低い群と比べて全死因死亡リスクが20〜48%低い。がん死亡リスクも16〜39%、心血管疾患死亡リスクも22〜57%低いのです。もちろん、健康と長寿のためには十分な“睡眠時間”が必要です。けれども“規則正しい睡眠”のほうがさらに重要であることがわかったのです」

なぜそれほど睡眠の規則性が重要なのか。ここに、八木田氏の研究テーマの一つでもある、体内時計の視点からの「良い睡眠」がある。

「夜更かしをしたり、不規則な生活を送ったりしていると、体内時計が乱れて体に良くないということは知っていても『体内に時計がある』というのは、あくまで例え話と思っている人もいるでしょう。しかし、体内には本当に時計の働きをする仕組みがあるのです。しかも人間だけでなく、昆虫や微生物に至るまで、地球上のほとんどの生物に備わっています」

(撮影=今井一詞)

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