ゴミ屋敷に住む人は社会的に孤立しているため、孤独死を迎えやすい。孤独死とは、「誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な死」を指す。前回は、ゴミ屋敷に住んでいても、この人は孤独死に陥らないだろうという高齢男性を紹介したが、それでは実際の“悲惨な孤独死現場”とは、どのようなものか——。(連載第7回)

キャリア8年でも「これほどの数のハエは見たことがない」

2020年12月――。

その現場には、数百、もしかすると数千かという、おびただしいハエの死骸があった。

60歳男性は戸建て1階リビングの、窓際で死亡していたそうだが、ハエはその場所だけでなく台所や風呂場、トイレなどまで飛び回っていたらしい。1階の床のあらゆる場所に死骸が落ちていた。これまでゴミ山はたくさん見てきたし、もはやそこに尿や便が混じっていても驚きはしないが、大量のハエの死骸に遭遇するのは初めての経験である。その家の庭から室内をのぞいただけで私は帰りたくなった。

窓ガラス越しからも大量のハエの死骸が見えていた。
撮影=笹井恵里子
窓ガラス越しからも大量のハエの死骸が見えていた。

男性の死因は脳疾患で、見つかるまで死後1カ月が経過していた。男性は一人暮らしで、近所の人が「異臭」を感じて通報。80代の母親が遠方から駆けつけて本人確認をした。そして葬儀会社からの紹介で、室内の清掃と全ての物の処分を生前遺品整理会社「あんしんネット」に依頼したとのことだった。

私がこの現場で働く10日ほど前、あんしんネットの社員である平出勝哉さんが特殊清掃(遺体の腐敗でダメージを受けた室内の原状回復する清掃作業)を行っている。平出さんはアルバイト期間を含めて8年間この仕事をしているが、「これほどの数のハエは見たことがなかった」と振り返る。

【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら
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「すごかったですよ。夜に、僕ともう一人の社員二人で室内に入ると、もう壁が真っ黒になるくらい、びっしりハエが止まっているんです。プシューッと殺虫剤をまくと、断末魔というかハエが泣き叫ぶんです。そしてぼとぼと下に落ちていく。床でハエがのたうちまわる」

「死後発見が3週間を超えると、悲惨な状況になる」

同社事業部長の石見良教さんによると、「死後発見が3週間を超えると、悲惨な状況になる」という。

「死後1~2日程度なら、問題はありません。しかし、夏場は死後3日すぎると遺体の腐敗が進んできます。冬場でも数週間たてば臭いが漂います。やがて遺体は溶けていき、体液や血液が流れ出て床も大変なことになります。そしてその臭いに引きつけられてハエがたかり、卵を産み付けるのです」

卵がかえればウジになり、2週間ほどすると成虫=ハエになって飛ぶ。すると今度はそのハエがまた卵を産み付け、どんどんウジがわき、さらに室内にも多くのハエが飛び回る。石見さんが経験した中では、室内にハエが“大きな渦”を描いて飛び回っていた現場があったという。その時は玄関越しに高音の羽音が出て、入室する前から異様な雰囲気だったとか。

今回の現場は特殊清掃が終わっていたため、「外からの羽音」はしなかったが、室内はハエの死骸の山だった。