誰かがやらなければこの室内はきれいにならない

全ての物を撤去し、ガランとした室内ではハエの死骸だけが残った。特に窓の溝には死骸が大量につまっていて、ホウキではなかなか取ることができない。

「掃除機で吸うしかないでしょう」

と言われ、しぶしぶ私は掃除機を片手に室内でハエを吸う係になった(なお使用した掃除機は、衛生上廃棄処分になる)。掃除機の吸い込み口から、まだピクピク動いているハエを吸い取る作業はあまりいい気分がしない。だが、誰かがやらなければこの室内はきれいにならない。トイレや風呂場にまで落ちているハエを私はひたすら掃除機で吸い取っていった。

それが終わると、平出さんがすべての部屋に人体に無害の消毒・消臭剤をまいて作業終了となる。

平出さんが消毒薬を散布する様子。これで作業終了となった。
撮影=笹井恵里子
平出さんが消毒薬を散布する様子。これで作業終了となった。

外に出ると、アルバイトの作業員が思い思いのことを口にしていた。

「これでご近所の人も一安心だろうなぁ」
「でも俺は今日の作業、やだったよ。なんか重苦しくて」
「うらみつらみがすごかったよね」

「人格が変わってしまうのではないか」と思うほどの臭い

私は彼らに話しかけた。

「これまでつらかった作業はなんですか?」
「それはもちろんションペットを処分することですよ」

と、Aさん。ションペット(尿の入ったペットボトル)は強烈な臭いを放つため、現場での処理ができず、あんしんネットの会社にもちかえることもしばしばある。そしてペットボトルのフタを開けて一本ずつ中身をトイレに流すのだ。

「地獄みたいな作業ですよ」

「目が痛くなりますよね」と、大枝さん。

ションペットの廃棄は、社員の平出さんも「連続して200本のションペットをトイレに流す行為がつらかった」と話していた。“自分の人格が変わってしまうのではないか”と思うほどの臭いで、作業後は精根尽き果てたという。

彼らは、どんな心境でこの仕事をしているのだろうか? 美談ではない本音が聞きたいと私は思った。次回、彼らの胸の内に迫る。(続く。第8回は12月25日に配信予定)

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