※本稿は、アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
スマホが置いてあるだけで学習能力が落ちる
スマホの使用に特に慎重になったほうがいいのは、学校や大学の教室内だ。そこで脅かされるのは集中力や作業記憶だけではない。長期記憶を作る能力にも悪影響が出る。スマホやパソコンがそばにあるだけで、学習能力が落ちるのだから。
ある研究で、2つの大学生のグループに同じ講義を聴かせた。片方のグループは自分のパソコンを持参し、もう片方は禁止されていた。パソコンを持参したグループが講義中に何をしているかを調べてみると、講義に関するウェブページをいくつも見ていて、そのついでにメールやフェイスブックもチェックしていた。講義の直後、パソコンを使った学生たちは、もう一方のグループほど講義の内容を覚えていなかった。学生に偏りがあったためではないのを確認するために、同じ実験を別の2グループでも行った。やはり結果は同じで、パソコンなしのグループの方がよく学習できていた。
手書きメモはPCに勝る
それなら、講義中にフェイスブックを開くのをやめればいいのでは? もちろん、それで確実に効果はある。しかし、SNSを見てしまう以外にもパソコンが人間の学習メカニズムに与える影響があるようなのだ。米国の研究では、学生にTEDトークを視聴させ、一部の学生には紙とペン、残りの学生にはパソコンでノートを取らせた。すると、紙に書いた学生の方が講義の内容をよく理解していた。必ずしも詳細を多数覚えていたわけではないが、トークの趣旨をよりよく理解できていた。この研究結果には、「ペンはキーボードよりも強し──パソコンより手書きでノートを取る利点」という雄弁なタイトルがついた。
これがどういう理由によるものなのかは正確にはわからないが、パソコンでノートを取ると、聴いた言葉をそのまま入力するだけになるからかもしれない、と研究者は推測する。ペンだとキーボードほど速く書けないため、何をメモするか優先順位をつけることになる。つまり、手書きの場合はいったん情報を処理する必要があり、内容を吸収しやすくなるのだ。
興味深いのは、スマホと一緒にいる時間が長いほど気が散ることだ。スマホを持って講演を聴いた参加者は、スマホを会場の外に置いてきた参加者と比べると、最初の15分の理解度は同じくらいだった。しかしその後は、講演から得られる情報がどんどん減っていった。15分間真剣に話を聴いたら、そのあとは集中が途切れやすくなるのは当然だ。そこでスマホが最後の一押しになるのかもしれない。