ここ数年、中国の兵法書『孫子』がビジネスパーソンの間で静かなブームになっている。書店に足を運べば、『孫子』を題材としたビジネス書はたくさん並んでいる。一体どこがビジネスにとって有用なのか。孫子兵法家として企業向けコンサルティングを行っている長尾一洋氏に聞いた――。
中国の古代の書籍
写真=iStock.com/zorazhuang
※写真はイメージです

2500年前から評価されてきた知恵のかたまり

——孫子』とはどういう内容の書物なのですか。

【長尾】孫子』は今から2500年ほど前、春秋時代の中国で現された兵法書です。書いたのは孫武(孫子)という人物で、全13篇に分かれていて、戦いの準備から戦闘の実際までさまざまな内容が記されています。『孫子』は兵法書として「最古にして最高」と称されます。それは、実際に起きた戦いの単なる記録ではなく、戦いを左右する根本原理を記した思想書だからです。

原理原則が書かれているからこそ時代が変わっても読まれ続け、現代では多くの企業経営者や組織を動かす人たちが参考にしています。2500年の間、洋の東西を問わず評価されてきた知恵のかたまりですから、ビジネスマンがこれを学ばない手はないでしょう。

——孫子』は現代のビジネスシーンで、どのように役立つのでしょうか?

【長尾】現代は手本のない時代です。同業他社の真似をしていても生き延びることは難しい。新しいアイデアが出てこなければ、業界全体もシュリンクしていきます。だからこそ独自の戦い方、戦略が重要になってきます。しかし、それを決めるには自らの判断軸を持っていなくてはならない。

そんな時に『孫子』の兵法が役立ちます。例えば、新しいアイデアを思いついたとします。そうしたらそれが『孫子』の兵法に当てはまるかどうかを、一度考えてみるんです。これがちゃんと合致すれば、そのアイデアを進めていく大きな後押しになりますし、人を説得する時の材料にもなります。