「人の耳目を一にする」旗印の重要性
——ほかにはどのような『孫子』の言葉を引かれますか?
【長尾】経営者の方とお話しをしていると「売上目標」を掲げる方は結構いらっしゃるんです。でも「なんのために売上を上げるのか?」という点が抜けていることがあるんです。「我々はなんのために働くのか」ということに対する理由付けとして、企業としての旗印が必要なのです。
そういう時は『孫子』の「人の耳目を一にする」という、戦いにおける旗印の重要性を語った言葉を紹介します。この言葉で、会社の理念を、社員全員がわかる形で共有することがいかに大事か、ということを説明するのです。
人間は2500年前とそれほど大きく変わらない
——『孫子』の言葉には、組織論について言及しているものも多いですよね。
【長尾】これはやはり春秋時代という時代背景が反映しています。当時、戦闘が大規模化していく中で、農民兵を組織して戦わせるという変化があったそうです。しかし農民兵は戦争に対するモチベーションが低い。そのため、いかに彼らのモチベーションを上げるのか、という観点で書かれた部分が少なからずあります。
これは現代のモチベーションが低い社員の意識をいかに変えていくか、という部分と共通する問題意識です。もちろん2500年前のままの発想では、現代ではブラック企業になってしまいますから(笑)、そこはちゃんと現代に合わせて応用をしなくてはいけません。でも、部下のいる方にとっては参考になるところも多いと思います。
——『孫子』の思想は今も生きているのですね。
【長尾】『孫子』が書かれてから2500年が経過していますが、人間という存在はそれほど大きくは変わっていないのですね。だから『孫子』を読むと、今の問題と重なるものがいろいろ見つけられるわけです。それぞれの生活の中で『孫子』の思想を役立てていただければと思います。
(取材・文=保井 拓三 撮影=小林 ゆうみ)