日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、文在寅政権は失効直前に破棄通告を撤回した。作家の佐藤優氏は「韓国人には、日本がアメリカを巻き込んで文在寅政権をねじ伏せたように見える。日本への恨みの感情が蓄積されるだろう」と指摘する。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏との対談をお届けする——。

※本稿は、手嶋龍一・佐藤優『日韓激突 「トランプ・ドミノ」が誘発する世界危機』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

写真=EPA/時事通信フォト
韓国の文在寅大統領(韓国・釜山、2019年11月27日)

声明文に滲み出る無念の思い

【佐藤】GSOMIAが失効する秒読みの段階にあった11月22日になって、なぜ、文在寅政権が「いつでも協定の効力を失効させることができるという前提のもと、終了通知の効力を停止させる」という、実にまどろっこしい表現で、協定の破棄通告を延期したのか、その背景を検証してみたいと思います。

【手嶋】文在寅大統領の無念の思いがこの声明文ににじみ出ています。本当は破棄したかったのだが、トランプ政権の圧力を前に妥協せざるをえなかった——と。その一方で、韓国内では「協定を破棄すべきだ」という声は、世論調査では半ばに達していましたから、手ぶらでアメリカの求めに応じるわけにはいきませんでした。

【佐藤】文在寅政権は「日本が実施している韓国への輸出規制の強化を巡って、局長級協議を行う」と発表し、こうした協議が行われている間は、WTOへの提訴手続きを停止することを明らかにしました。文在寅政権は、協定破棄を撤回するには、日本が韓国への輸出規制を撤廃するよう求めていたのですが、安倍政権は断じて応じられないとしていました。そのため、日韓が輸出規制を巡って協議することで折り合ったわけです。

もっとも日韓それぞれの折り合いの程度はだいぶ異なります。韓国は、GSOMIAの失効を停止するという決定的な譲歩をしています。これに対し日本は、GSOMIAとはまったくリンクさせない形で韓国がWTOへの提訴手続きを停止したからそれに対応して対話を行うとしています。つまり、GSOMIAとリンケージさせていない。