「恋に落ちた」トランプと金正恩

【佐藤】文在寅にとっては、トランプと金正恩が「恋に落ちてしまった」ことも響いていますね。北朝鮮が何より望んでいるのは、自らの体制の保証にほかなりません。それを裏書きできるのは、アメリカしかいないのです。韓国や中国や日本に期待するのは、そのための従順なる仲介者の役割でしかない。

【手嶋】金正恩は、仲介者としての文在寅は、すでに賞味期限が切れていると踏んでいるのでしょう。韓国としては「反日共同戦線」をと考えていたのですが、すっかり当てが外れてしまったわけです。

【佐藤】光復節で文大統領が「南北協力を通じて、平和経済を建設して韓半島(朝鮮半島)平和体制を構築するために努力している」と呼びかけたのに対する北朝鮮の答えは、「我々は南朝鮮当局者らとこれ以上話すこともなく、再び対座するつもりもない」という、にべもないものでした。文演説で六回も強調された「平和経済」についての金正恩のコメントはさらに辛辣しんらつで、「ゆでた牛の頭も天を仰いで大笑いするようなもの」と応じました。朝鮮語のニュアンスに詳しくない私にも、かなり侮蔑的な表現であることは理解できます。

米朝にとって文在寅は「用済み」

手嶋龍一・佐藤優『日韓激突 「トランプ・ドミノ」が誘発する世界危機』(中公新書ラクレ)

【手嶋】2018年3月、ホワイトハウスで「米朝が初めての首脳会談に合意」という発表を記者団にしたのは、なんと「金正恩のメッセージ」を携えてトランプのもとに飛んだ、韓国の鄭義溶(チョン・ウィ・ヨン)・国家安全保障室長でした。歴史的な会談を実現させる仲介役を韓国は見事に果たしたのですが、わずか一年で仲介役としての存在感が薄れてしまいました。時の流れは、実に速い。

【佐藤】象徴的だったのが、2019年6月30日に、トランプが朝鮮半島38度線近くの板門店に足を運んで開かれた、米朝首脳会談でした。会談そのものが意味するものについては後で論じたいと思いますが、このとき文在寅にできたのは、会談の場所を貸すことだけだったのです。

【手嶋】握手して少し話して、写真を撮って、さようなら。

【佐藤】アメリカも北朝鮮も、もはや文在寅は「用済み」。「これからは二人でやっていくから、君はもういいよ」という露骨なパフォーマンスを世界に向けて演じたのでした。

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