アメリカがベネズエラを電撃攻撃した報道を受け、「中国にも台湾侵攻の口実ができた」との懸念が浮上している。だが、安全保障を専門とする海外の専門家らは冷静だ。中国はなにも国際法へ配慮して攻撃を控えてきたわけではなく、単に上陸する能力がないためだとの見解を海外メディアが報じている――。
2026年1月5日、中国・北京で、中国の習近平国家主席が、韓国の李在明大統領との会談に先立ち、人民大会堂北ホールで歓迎式典を開催した。
写真提供=Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ
2026年1月5日、中国・北京で、中国の習近平国家主席が、韓国の李在明大統領との会談に先立ち、人民大会堂北ホールで歓迎式典を開催した。

米国内でも「中国に口実を与えた」論が噴出

アメリカは1月3日、ベネズエラへ電撃的な軍事攻撃を仕掛けた。マドゥロ大統領と妻を拘束し、麻薬およびテロ関連の容疑でニューヨークへ移送したのだ。米CNBCによると、国連のグテーレス事務総長は「国際法のルールが尊重されていない」と深い懸念を示し、「危険な前例」だと批判した。

この作戦は、アメリカがこれまで掲げてきた主張の正当性を揺るがしかねない。国際投資顧問会社クォンタム・ストラテジーのデビッド・ローチ氏は米CNBCに対し、「トランプが他国に乗り込んで政権を転覆できるなら、なぜプーチンがウクライナで間違っていると言えるのか。中国が台湾を支配する権利がないとなぜ言えるのか」と指摘した。

トランプ政権は国家安全保障戦略で、「トランプ・コロラリー」を掲げる。これは西半球、すなわち南北アメリカ大陸における勢力圏を主張する内容であり、トランプ版モンロー主義とも呼ばれる。元々モンロー主義とは、1820年代に欧州列強の介入を拒み、南北アメリカをアメリカの勢力圏と宣言した外交方針を指す。つまり、2世紀以上前の価値観を現代に蘇らせようとする方針だ。

カーネギー国際平和財団のエヴァン・ファイゲンバウム氏は「アメリカは自国の西半球での勢力圏を(正当なものとして)主張しながら、中国のアジアでの勢力圏は(不当なものとして)否定しようとするだろう」と分析。アメリカ外交に矛盾と偽善が存在するのはもはや明白であると指摘した。

与党・共和党内からも懸念の声が上がる。台湾の国営通信社・中央通訊社が運営する英語ニュースサービス「フォーカス台湾」によると、ドン・ベーコン下院議員はXで「主な懸念は、ロシアがウクライナへの違法で野蛮な軍事行動を正当化するため、または中国が台湾侵攻を正当化するためにこれを利用することだ」と投稿した。

「敵意はあれど実行できず」中国軍の能力不足

では、中国は台湾侵攻への勢いを強めるのか。単純にベネズエラと台湾を直接結びつける見方に対し、専門家らは慎重だ。

米ブルッキングス研究所のライアン・ハス氏はCNBCに対し、中国は国際法への配慮から攻撃を控えてきたわけではないと指摘。一貫して武力行使を伴わない威圧戦略を意図的に用いてきただけであるため、今回の件をもってしても方針を変える理由がないと分析する。「中国側には時間がある」とも述べ、急いで西側を敵に回す動機は薄いとした。

他の専門家も同様の見解を示す。米外交政策シンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドのボニー・グレイザー氏はフォーカス台湾に対し、「中国は長期戦を展開している」と分析。アメリカ在台協会(アメリカの事実上の台湾大使館)の元会長リチャード・ブッシュ氏も、台湾の民進党政権が2028年以降も続く保証はなく、習近平には長期的アプローチを追求する動機があると指摘する。

中国側の不利を指摘する声もある。中国の国立総合大学・人民大学の時殷弘(シー・インホン)教授はロイターに対し、「台湾制圧は中国の能力にかかっているが、(能力は)まだ不十分。トランプが遠い大陸で何をしたかとは無関係なのです」と述べた。

台湾与党の王定宇(ワン・ディンユー)議員も「中国は台湾への敵意を欠いたことはないが、実行可能な手段もまた欠いている。もし実行できるなら、とっくにやっていた」と一蹴する。