日本の多くの書店には、韓国人や朝鮮民族への差別や憎悪を煽る「嫌韓本」がある。それでは韓国の書店に「嫌日本」はあるのか。知人から「韓国の書店にヘイト本はない」と聞いたジャーナリストの石橋毅史氏がソウルの書店を調べたところ、ややこしい本が見つかった――。(前編/全2回)

※本稿は、石橋毅史「本屋な日々75 憎悪を探して」(発行:共同DM「今月でた本・来月でる本」、編集:トランスビュー)の文章を加筆・再編集したものです。

「はっきりいって、あれは日本の恥だと思います」

昨年10月、2日間だけ韓国・ソウルの町を歩いた。

目的はひとつだけ。

韓国には、日本に対するヘイト本、いわば「嫌日本(けんにちぼん)」はあるのか? 

昨年8月に『本屋がアジアをつなぐ』(ころから)という本を出した。東京/中日新聞でおこなっていた同名の連載に、書き下ろしを加えてまとめたものである。

この単行本化の作業が佳境に入っていたころ、確認したいことがあって韓国の出版関係者に連絡をとった。言葉を交わすうちに、なぜかヘイト本の話題になった。

すると、その人はこう言ったのだ。

「韓国の書店には、日本のようなヘイト本はありません。はっきりいって、あれは日本の恥だと思います」

これまでに何度も韓国を訪れているが、日本における嫌韓本と対になる「嫌日本」の有無を確認したことは1度もなかった。韓国は韓国で、日本を批判的に論じる本のなかにはヘイト本の類もあるだろう……漠然と、そう思い込んでいたのだ。

平積みされていた『六本木 キム教授』
撮影=石橋毅史
平積みされていた『六本木 キム教授』

本屋がアジアをつなぐ』には、ヘイト本について触れた章もある。「韓国にはない」ことが事実なら書き加えたかったが、自分の目で確かめずに書くわけにはいかないし、すでにそれをする時間もなかった。結局、一言も盛り込まずに校了した。

このソウル行きは、いわば積み残しの荷物を取りに行ったようなものだった。もっとも、さほど込み入った取材は必要ない。市内の書店を何軒か回って、ない、という事実を確認すればいいのである。