平積みされていた『六本木 キム教授』

ただ、それはどの国も基本的に同じはずである。なぜヘイト本は「日本にあって、韓国にはない」のだろうか?

『六本木 キム教授』の書影
『六本木 キム教授』の書影

そういえば「嫌中本」は、このところやや鳴りを潜めている印象がある。安倍政権の外交の現状が反映されるのもヘイト本の特徴で、このあたりに謎を解くカギがあるのか?

……などと、棚の前で思いを巡らせる僕に、そろそろ次の店へ、と友人が促した。

そうですね、と出口へ向かって歩きだし、「政治」の棚の前のテーブルを再び通りかかったとき、平積みされたある本の表紙に目がとまった。

背景は白で、上部に赤い大きな丸。その赤丸のなかには日本地図が描かれている。赤丸の左隣には黒い棒がタテに描かれていて、手にとってみると、オモテ表紙から背表紙、ウラ表紙にわたるかっこうで「N」という字になる。日本地図の描かれた赤い丸と合わせて「NO」と読めるようになっている。

――この本のタイトルは?『NO日本』?『日本は要らない』とか?

友人は、いえ、としばらく表紙のオモテとウラを眺め、本の後ろのほうにある奥付をたしかめ、首をひねった。

「この、いちばん大きな文字は『六本木 キム教授』と読みます。奥付も『六本木 キム教授』。ヘンなタイトルですね」

やっぱり「嫌日本」はあるんだ!

中を見てみる。パチンコ店の様子を撮った写真、女性の下着を頭に被った男の写真、日本の野菜の農薬使用量が世界一であることを示したグラフなどがある。ハングルを読めなくても、日本や日本人を否定的に紹介していることはうかがえる。あるいは、人間の頭部にたくさんの単語が羅列されたイラスト。日本人の脳内はこんな関心事で占められる、といった話なのだろう。

数か所を翻訳してもらうと、概ね想像どおりだった。奥付に書かれた発売日は9月27日。この時点では、まだひと月たっていなかった。

ソウルまで来た甲斐があった! やっぱり「嫌日本」はあるんだ!

まずはライターとして、この発見を無邪気に喜んだ。ないはずの嫌日本があった、まだ新しい本だからニュース性もある、なるべく早く書かなくては、そう思った。

それから、ジワジワとイヤな気分が広がった。日本の韓国ヘイト本に対して、韓国からは日本ヘイト本……全然おもしろくない! どう書いたら盛り上がるっていうんだ?

隣には、青木理『日本会議の正体』の韓国版があった。安倍晋三、安倍政権に対する鋭い批判で知られる著者も、嫌日本と並ぶことは本意ではないだろう。