2019年韓国でヒットした『反日種族主義』
翌朝は、10時に1軒目の大型書店を訪れた。
昨晩と同じく、まずは人文・社会書の売場へ向かい、「歴史」や「政治」の棚に並ぶ本をチェックした。昨日の書店で見かけた本も、新たに見つけた本もあった。
2019年の韓国出版界のトピックスのひとつは、『反日種族主義』のヒットであった(日本では翻訳版がベストセラーになっている)。反日とされる文在寅政権の支持率が揺らぐなか、編著者であるソウル大学の元教授が「日帝」時代も含めて日本側に立った韓日関係論を打ちだした。書店には同様の本が他にも数点並んでいて、これまでになかった傾向だという。
『反日種族主義』とまったく逆の本も、同じテーブルで平積みされていた。著者は保坂祐二という日本出身(現在は韓国に帰化)の政治学者で、独島(竹島)は韓国の領土であるとするなど、以前から韓国側に立った主張をつづけている。
「歴史」「政治」「外交」といった棚の特徴は、とにかく日本についての本が多いことだ。過去も現在も、日本はもっとも警戒し、注視すべき国なのだろう。いっぽうで、小説などは相変わらず日本の作品が幅広く揃い、旅行ガイドなども充実している。日本から直接輸入した本も多い。
『アホでマヌケなアメリカ白人』が差別的と言われない理由
レジの近くで、東野圭吾の小説が山積みになっていた。日韓関係の悪化の余波で、東野圭吾の新作も含む幾つかの翻訳が延期になったという報道を見たことがあるが、あくまでも一時的な影響だったらしい。
日本も似た状況ではある。国際政治や外交については韓国、北朝鮮、中国についての本が多いし、旅行ガイドのコーナーでも韓国の都市名は目立つ。BTS(防弾少年団)などのK‐POPグループや俳優など芸能人の本も人気で、近年は小説やエッセイも読者層が広がっている。
ただし日本の場合は、これに嫌韓本が加わるのである。
かつて、『アホでマヌケなアメリカ白人』(2002年、柏書房)という本がヒットした。この邦題には、アメリカ人に対する日本人のルサンチマンに訴える狙いがあったと思う。著者のマイケル・ムーア自身がアメリカ人ということもあるが、当時、この本に差別的だという批判が挙がった記憶はないし、僕もそう思わなかった。
ところが、この邦題の「アメリカ白人」を、「朝鮮民族」とか「中国人」に変えた途端にヘイトのにおいがする。そして、実際にそうなるだろう。すぐ隣の国という近さ、かつて占領地にしていた歴史の記憶、その記憶から負の要素をなくしたいという気持ち……出版大国・日本では、あらゆる層の、あらゆる欲望に応える本が刊行される。