マスメディアに登場することは一切なかった、知る人ぞ知る伝説のコンサルタントがいた。5000社を超える企業を指導し、多くの倒産寸前の企業を再建した、一倉いちくらさだむ氏だ。真剣に激しく経営者を叱り飛ばす姿から、「社長の教祖」「炎のコンサルタント」との異名を持った。そんな一倉氏が説いた「社長学」とは――。

※本稿は、作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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死の直前まで、社長を叱り飛ばした

「社長専門コンサルタント」を生涯貫いた一倉いちくらさだむ先生はよく、「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは、良い社長か悪い社長だけである」と語っていた。この一言こそ、“社長の教祖”の異名を持つ一倉定の信念があった。

一倉先生は1999(平成11)年3月に亡くなる直前、病床においてさえ鬼気迫る形相で社長を叱り飛ばしていた。最期は教え子であったT社長が運営する施設に入った。そのT社長の計らいで富士山を望める特別室が用意された。

しかし、である。部屋に入るや否や「社長を呼んで来い!」と一喝。「君は富士山が綺麗に見えると言ったが、いったいどこに見えるんだ!」確かに窓からは雄大な富士山が正面に見えてはいるが、ベッドに横になると壁と青い空しか視界に入ってこないのである。

「君はこのベッドに寝たことがないだろう」「一晩も泊まったことはないはずだ」「あれほど、『お客様の立場になって』『お客様第一主義』と教え、経営計画書に書いてあっても、君はまだ全然わかっていない」と大目玉だった。

会社の繁盛も長い事業の継続も「全てはお客様がお買い求めになられ、満足し、また購入していただけることでしか実現できない」。「この当たり前すぎるほど当たり前のことが、なぜわからないんだ」と、常に社長に「喝」を入れ続けていた。

「社長の居場所は常に市場、お客様のところになければならない」とした一倉社長学の原則は、時代を超えた不変の哲理なのである。