どう考えても自己に不利益な選択をする理解不能な相手を前にしたとき、その相手を「不合理な人間」と決め付けるのは簡単だ。しかし、真に優秀な交渉者はそうすべきでないことを知っている。

先日、私の教えている企業幹部対象の交渉講座で価値の創造と効果的な交渉のための戦略について議論していたとき、1人の受講生が手を挙げてこう言った。「こうした戦略は理屈に従う人間を相手にしているときはいいが、私が相手にするのは、すこぶる不合理な人たちだ。不合理な相手とはいったいどうすれば交渉できるのか」。

これまでに多くのベテラン・ネゴシエーターが、私に同様の疑問をぶつけてきた。論理的に考えず、自己の利益と相容れない行動をとる人間との交渉では、ネゴシエーターは概して苦労する。

しかし、相手を不合理と決めつけることがはたして理屈に合っているのだろうか。不合理な行動の背後に、思いも寄らない動機があるかもしれない。

相手を不合理な人間と誤解することは、手痛い戦略ミスにつながることがある。本稿では、人々が相手を不合理と誤解する理由のうち最も一般的な3つを取り上げて、失敗を避ける方法を紹介する。