人は、「悪い事象」に直面すると、客観性を失う。険悪なムードのなかで行われることの多い、債務や制約をめぐる交渉で、最善の結果を引き出すために、交渉者ができることは何か。

負担をめぐる交渉と便益をめぐる交渉では人々の交渉の仕方に著しい違いがある。あなたが製造会社のCEOだと想像してみよう。新しい規制が導入されたことで、あなたの会社と近隣の別会社が、大きな金銭的利益につながる合意を締結できる可能性が生まれている。その利益の配分について交渉するのは楽しみなものだ。

逆に、新しい規制があなたの会社と近隣の別会社に金銭的負担を課すことになると想像してみよう。この場合、これらの負担を分担する合意に至るために交渉しなければならない。コスト配分の交渉は、気が進まないものだ。

負担をめぐる交渉は同価値の便益をめぐる交渉よりはるかに難しい。負担をめぐって交渉するときは、議論はより対立的になり、その結果、パイの縮小、機会損失、行き詰まりなどが生じるからだ。

本稿では、紛争や対立する要求や権利の侵害を含む激しい論争に発展しがちな交渉をよりうまく進める助けになる戦術を、いくつか紹介する。