負担をめぐる交渉のよりよい進め方
ここからは、負担をめぐる交渉を効果的に進めるための戦略を提案する。
(1)信頼や親和関係を築く
負担の配分をめぐる交渉は往々にして敵意を生じさせるため、このような状況に置かれているネゴシエーターには親和関係や信頼の構築に特に力を入れることをお勧めする。交渉をあまり対立的にしないために、まず相手の視点を思いやっていただきたい。視点取得(perspective taking)は相手の交渉行動や交渉意図についての厳しい解釈を和らげてくれる。
次に、相手についてもっと知る努力をしよう。相手について知る時間を与えられれば、頑なな不信の姿勢が緩和され、資源のパイが拡大することが、カーネギー・メロン大学のドン・ムーアの研究であきらかになっている
第三に、遺憾の意を伝えよう。このような厳しい状況になって残念ですと(自分の非を認めることなく)伝えることは、怒りを鎮め、信頼が生まれることを可能にする強力な方法だ。
ただし、礼儀正しくふるまっても、相手の言いなりにはならないように。
(2)時間を自分に有利に使う
人間は将来のことは大幅に割り引いて考える。われわれは将来のことは現在のことほど心配しないし、今下す決定について自分が将来どれほど思い悩むことになるかを過小評価する。この傾向は、好ましくない事象についてはとくに顕著である。不愉快な仕事を、先延ばしにしがちなのはそのためだ。
先延ばしは、交渉ではとくに問題だ。土壇場で合意をひねり出すとき、あなたは慎重な検討の効用を放棄して、負担をめぐる交渉に内在する対立性を悪化させている。たとえば、諸手当の削減をめぐる紛争の解決を労働協約が失効する寸前まで先延ばしにすれば、本格的なストライキの可能性が高まる。先延ばしした結果、交渉中に不要な時間的プレッシャーに追われるだけでなく、合意成立後にそれを直ちに実行することをせまられる確率が高くなる。
幸いなことに、ネゴシエーターは時間を味方につけることができる。人間は将来のことは割り引いてとらえるため、遠い将来の負担は現在の負担ほど苦痛や対立をもたらさないように感じられるのだ。
実際、ユタ大学のジェラルド・オキュイセンとともに行ったわれわれの研究では、合意が後日、実行されることになっている場合には、ネゴシエーターは負担を便益と同様に扱い、その交渉結果は合意が直ちに実行される場合より効率的なものになることが明らかになっている。
よって、負担を実行する期限が来るずっと前に交渉を終えるようにすればよい。合意と実行の間に意図的に時間を置くことを考えてもいい。そうすることで交渉のプロセスを早め、結果を高めるのである。
組織や政治においては、実行までに時間があることはもう1つの利点を生む。負担が実行されるときには別の人物が担当者になっている可能性があり、そのため、現在の交渉担当者にかかる、負担受け入れの心理的重圧がさらに小さくなる。しかし、実行をあまりにも遠い将来に先送りにすると、負担をめぐる対立が、再燃する危険性もある。