どの業界にいても、もめごとは必ず起きる。納品が遅れる、顧客が翻意する、ビジネスパートナーが約束を破る……。一見、出口がないように見える紛争でも、必ず解決の糸口はある。

有能なビジネスリーダーは、紛争でも交渉と同様、価値創造の機会を見つけようとする。本稿では、一見、手に負えないようなビジネス紛争にも価値を見つける6つの方法を紹介する。

(1)共通の利益を利用する

紛争は相違点を浮き彫りにする。しかし、明らかな相違点は、紛争に関わっている当事者の間にやはり存在する「非競争的な類似点」をえてして覆い隠してしまう。

ハイテクメーカーとそのメーカーにライセンス供与している小企業の紛争を考えてみよう。両者はライセンス供与に対するロイヤルティの算定方法をめぐって激しく対立しているが、どちらの企業も新製品に対する市場の信頼を維持することに関心がある。また、サプライヤーや債権者や見込み顧客が紛争中の企業との取引を敬遠するおそれがあることも認識している。共通の利益を考えると、両者は紛争の一部を表に出さないようにすることで合意できるだろう。また、期限を決めて解決を先送りにし、新製品からあがる利益を第三者預託にしておくことも可能だ。

(2)選好や優先事項や資源の相違を探る

重要な紛争には一般に複数の問題が絡む。紛争の真っ最中には、当事者は往々にして、金銭のような目立ちやすい単一の問題に気をとられるが、これは他の重要な問題を覆い隠すおそれがある。複数の問題が絡んでいる場合、当事者は特定の問題を他の問題より重視している可能性が高い。そのため、優先事項や資源の違いを利用することで、紛争を解決できる可能性がある。

ザ・ポスタル・サービスという名前のエレクトロポップ・デュオの例を考えてみよう。彼らのアルバム「ギヴ・アップ」が主として18~33歳の年齢層の人々に40万枚以上売れたあと、このバンドのメンバーは、米国郵政公社(The United States Postal Service=USPS)から、同公社の商標登録名称の侵害であるとしてこの名前の使用停止を求める手紙を受け取った。この紛争は泥沼になりかねなかった。両者は単一の問題をめぐって争っているように見え、価値創造の明白な機会はありそうになかったからだ。USPSは自身の名前の価値が市場で希薄化することを懸念していた。バンドメンバーたちは、アルバムが成功したことから名前を変えるのは不本意だった。

だが、バンドは交渉の間に、双方の優先事項と非競争的な選好を突き止めることによって、この紛争を共働の機会に変えることに成功した。バンドはは、インターネットや電子メールのためにUSPSが被っている損失は、このバンドのファン層の年齢の人々の間でとくに大きいことを指摘した。USPSがザ・ポスタル・サービスの名前を使うことを無料で許諾することに同意するのと引き換えに、このバンドは、彼らのファンたちに対してUSPSの利用を促進するため、アルバムにバンド名が商標登録名称である旨を印刷することに同意した。さらに彼らはUSPSの年次行事で演奏することにも同意した。

互いの優先事項や資源を見抜くとき、ネゴシエーターはたいてい賢明な取引の機会を見つけるのである。