(5)生じうる問題に事前に対処する

有能なネゴシエーターは、リスクをうまく管理する解決条件を編み出すことによって、実行の際に生じうる問題にきちんと対処する。

大手企業のマーケティング部門とIT部門が、バックエンドソフトの再設計に関連した社内請求の扱い方をめぐって言い争っているとしよう。IT部門は可変的料金設定、マーケティング部門は一律設定を希望している。

両者は、再設計の予測可能な面については一律料金とし、そのあとの部分については時間当たり料金とすることにして、段階的に実施することで合意してもよいだろう。あるいは、最初に費用の上限を決めておいてもよい。マーケティング部門がその金額を事実上の第三者預託とし、完了時に残金があれば両部門で折半することにするのだ。

賢明なネゴシエーターは、実施時に生じるおそれがある障害を予想することによって、契約の存続期間中は双方に適切なインセンティブを与えるような契約を構築することができる。

(6)取引コストを最小限に抑える

法廷で争っているときでさえ、解決方法はある。最先端のGPS技術を使った製品を発売する準備をしているメーカーの例を考えてみよう。ある小企業が特許侵害を主張して裁判に持ち込むと脅している。訴訟は双方にとって高くつくし、判決が出るころにはその製品は流行遅れになっているかもしれない。肝心の紛争は解決できなくても、両者は目の前にある価値を破壊するのを防ぐために行動することはできる。たとえば、判決を待つ間に、合同で設立した別個の会社を通じてその製品を発売することができるだろう。新会社の活動からあがる利益は、特許侵害訴訟の結果に基づいて配分されることになる。両者はそれまで、争いのもとになっている価値を保全するのである。

いかに価値を創造し、損失を最小にできるかを見つけることによって、ビジネス紛争にともなうコストを減らすことができる。少しばかりの創造性とスキルで、失われるはずだった機会をとりもどすことができるのだ。

(文=ロバート・C・ボルドン、マイケル・L・モフィット 翻訳=ディプロマット)