企業は、突出した能力を持つ個人の力を最大限に引き出そうと、さまざまな報酬制度を用意しているが、そこに注力するあまり、チームが犠牲になることがある。このジレンマを克服するには?
ある大手メーカーの幹部チームが数年前、生産性を高めようと他の大手企業の経営慣行を研究した。彼らはゼネラル・エレクトリックの当時のCEO、ジャック・ウェルチの本の一部を引用して「社員を絶えずランクづけすべし」という結論を出した。つまり、優れた業績をあげる社員にはたっぷり褒美を与え、下から10%の社員はどんどんやめさせることにしたのである。
彼らが予見できなかったのは、この新しい制度がチームワークに及ぼす惨憺たる影響だった。「ランクづけして業績不振者はやめさせる」というこのやり方は、たしかに個々人をすばらしい結果に向けて邁進させたのだが、彼らに自分のチームを犠牲にしてそうしようという気持ちを起こさせたのだ。社員は自分の最高のアイデアを秘密にしておくようになり、強いチームの重要な要素である情報の自由な流れを阻んでしまった。社員たちは上司や上司の上司をうならせようとして、注目を集めるイベントやプレゼンテーションのときにだけ自分のアイデアを発表するようになった。
「社員は互いに手の内を見せないようにしていた」と、ロサンゼルスの経営コンサルタントで、『Executive Intelligence: What All Great Leaders Have(経営幹部の情報収集:偉大なリーダーたちが持っているもの)』(2005)の著者、ジャスティン・メンケスは語る。この企業では、協調性は失われ、アイデアの質も下がった。互いのインプットがないため、マネジャーたちのアイデアの多くが中途半端になってしまったのである。
今日ではほとんどの企業で、チームワークを大切にすると公言しているにもかかわらず、多くの業績管理制度やインセンティブ制度が、個人の貢献を重視するあまり、意図せずしてチームワークを損ねている。
これは本当に難しい問題である。もちろん企業は優れた業績をあげる社員に全力で仕事をする意欲を起こさせたいと願っているし、すばらしい業績をあげた人は、評価されることを期待している。しかし、そうした個人に、主役として輝きながら同時に強力なチームプレーヤーになる意欲を持たせるにはどうすればよいのか。これは舞台演出家並みの駆け引きの才を必要とする大変な仕事だが、不可能なことではない。