双方に褒賞を与えよう

「褒賞は強力なシグナルになる」と、テキサスAアンドM大学メイズ経営大学院の経営学準教授、ブラッドリー・カークマンは言う。「人は褒賞が与えられるような仕事をしようとするものだ。社員同士の協力を望んでいながら、個人に褒賞を与えることだけに精力を集中していたのでは、たいした協力は期待できないだろう」。

メリーランド州シルバー・スプリングのコンサルタント、ハワード・ロスは、20人の販売員に個人の売り上げだけを基に褒賞を与えていた自動車ディーラーの例を引き合いに出す。このシステムは販売員たちの意欲を高めはしたが、その一方で彼らに、互いの顧客を奪い合うなど「同僚に対してひどい振る舞いをする誘因も与えてしまった」と、ロスは言う。販売員たちは顧客サービスに励むのではなく、同僚の足をすくうことに精を出すようになった。おまけに顧客がこの店のぎすぎすした雰囲気に気づきはじめ、それが売り上げにも影響するようになった。

ロスはこのディーラーに、グループの業績に対しても褒賞を与えるシステムを導入させた。すると新たな仲間意識が生まれ、顧客もすぐにそのことに気づいた。そのうえ社員の定着率も向上した。

個人とチームの両方に焦点をあてたインセンティブ制度が効果を発揮するためには、これらの業績がそれぞれどの程度、考慮されるのかについて(たとえば個人の業績が40%、チームの業績が60%というように)明確に示す必要がある。このような厳密かつ明確な基準は、経営陣がどのような結果を重視するのかを明快に伝えるとともに、社員にはどのような行動が求められているのかというガイドラインになる。

こうした基準の重要性を示す事例として、カークマンはゼロックスの技術者たちを個人の業績に基づいて報酬を支払われている者、チームの業績に基づいて支払われている者、個人とチームの両方を考慮して支払われている者の3グループに分けて行われた研究をあげる。意外なことに、最も結果が悪かったのは混合型の報酬のグループだった。チームとしての活動と個人としての活動にどのように時間を割り振るべきかを、マネジャーたちが部下に明確に伝えていなかったのだ。そのため社員は、個人の成果とチームの成果にそれぞれどの程度の時間と労力をつぎ込むべきかについて混乱したのである。