「高いからこそ買いたい」不合理な心理を読み解く
自分のお金の使い方について、常に合理的な選択をできていると思いますか? つい衝動買いをしたり、予定になかった外食やギャンブルをしてしまったりすることはないでしょうか。
伝統的な経済学では、「人はいかなる場合も合理的に振る舞う」という仮説のもと、理論を展開していました。しかし、人間は時と場合によって非合理な行動を取ることがあります。そこで伝統的な経済学の考え方に、心理学的なアプローチを加えたのが「行動経済学」です。中でも「プロスペクト理論」は、行動経済学の核となる理論の一つ。この概念を理解しておくと、日常のショッピングからビジネスシーンでの交渉に至るまで、様々な場面における「利得」や「損失」について、人はどのように「喜び」と「痛み」を感じるのか、客観的かつ冷静に捉えられるようになるでしょう。
伝統的経済学のわかりやすい例として、「右肩下がりの需要曲線」があります。これは、「価格が上がるにつれ、消費者の購買意欲(需要)は減少する」という考え方です。非常にもっともらしく聞こえますが、実際の市場においては、この仮説通りにいかない事象が見受けられていました。
代表的な事例に、アメリカの高級オーディオメーカーの失敗談があります。1980年代、この企業は日本市場への進出にあたり売り上げの初速を伸ばすべく、製品価格を低めに設定しました。結果はというと、逆に販売成績は振るわなかったのです。ここから読みとれるのは、価格は「買い手の経済的な損失」以外にも複数の意味合いを持ち、それが消費者の購買行動と密接に結びついているということです。
例えば「高価格の商品は高品質なはず」と思い込む、いわば「品質のバロメーター」という側面。また、高価格帯の商品を所有することで自身の社会的地位を感じられる、つまり「ステイタス」を生み出す要因にもなり得ます。こうした人間のリアルな心理を加味して実際の経済の動きを読み解く学問こそが、行動経済学なのです。
この行動経済学の中でも、特に注目すべきなのがプロスペクト理論です。これは、イスラエルの心理学者であるダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって、79年に初めて提唱されました。この功績が認められ、カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
プロスペクト理論のベースになっているのは、それまでの経済学でも用いられていた「期待効用理論」です。これは、人はある事象が起こる確率(期待)と、それがもたらす満足度(効用)を掛け合わせた結果(期待効用)が、なるべく大きくなるように判断して実際の行動に移す、という考え方。プロスペクト理論では、この期待効用理論に心理学的視点をプラスして、さらに発展させている点が最大の特徴です。
「痛み」は「喜び」よりも2.25倍大きく感じる
具体的に解説していきましょう。まずプロスペクト理論では「主観的効用」を説明するために、価値関数グラフを用います(下図参照)。横軸が「事象がその人にとってどのくらいの利得/損失になるのか」、縦軸が「その結果もたらされる効用(喜び/痛みの程度)」を示しています。
この価値関数グラフには3つの大きな特徴があります。1つめが「参照点依存」です。参照点とは、横軸と縦軸が交わる点のこと。ここを境に利得か損失かに分かれるわけですが、参照点は各個人によって、主観的に判断されるという考え方です。例えば、同じ50万円の年末ボーナスでも、例年40万円程度のボーナスを受け取っていた社員にとっては10万円の利得、例年70万円程度のボーナスを受け取っていた社員にとっては20万円の損失と感じられるでしょう。つまり、今年のボーナスは例年の金額が判断基準となって、利得や損失を認識するということです。
2つめの特徴が「感応度逓減」。これは利得も損失も、その程度が大きくなるにつれ、効用の感じ方が鈍っていくという現象です。例えば、1杯目のビールは2杯目、3杯目より格段に美味しく感じませんか。価値関数グラフが曲線を描いていることから、このことが読み取れると思います。
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