【田原】リストラで立ち直った?

【田中】いえ、私が社長になったときに投資してもらった5億円も6カ月後には底をつき、ドイツの親会社から「これ以上、資金援助はしない」と通告されました。しかし、やはりこのビジネスには可能性があると思い、前にいた取締役で残っていた1人と一緒にベンチャーキャピタルを回って、なんとか1社から5億円を投資してもらうことができました。もっとも、その5億円のうち3億円は返済ですぐになくなってしまいましたが……。

【田原】綱渡りですね。

【田中】本当にそうです。その後も100社以上回っていくつかの会社から投資してもらうことができましたが、なんとか繋いで繋いで、というところでした。

【田原】100社も! ほとんどは断られたわけですよね。それでよくノイローゼにならなかった。

【田中】100人以上リストラするつらさに比べたら、なんてことはないです。断られてもせいぜい電車賃と時間が少しムダになるくらいで、損をするわけではありませんし。

【田原】マッキンゼーで働いていた経験も役に立ったのかな。マッキンゼーの仕事もキツいでしょう。

【田中】マッキンゼー時代は、単純に睡眠時間がなかったことがつらかったですね。いまは違うそうですが、昔は2~3時間しか眠れない日も多かった。もちろんそれなりにプレッシャーもありました。でも、やはり自分で経営したときのプレッシャーに比べたらかわいいものです。

【田原】リストラ以外にもつらい場面はあった?

【田中】仕入れた靴の代金を支払えなかったときもつらかったです。靴屋さんが乗り込んできて、倉庫をトラックで囲まれて、「払えないなら靴返せ」と。靴を一部お返しして、あとはひたすら土下座です。そんな状態がしばらくは続きました。

【田原】黒字になったのは、いつごろですか?

【田中】売り上げは初年度から伸びてはいました。ただ、薄利多売なので、売り上げがある程度大きくならないと黒字になりません。黒字化したのは取扱高が80億円に達した16年でした。翌年には上場も果たせました。

【田原】ロコンドは消費者に靴を売るだけでなく、BtoBのプラットフォームサービスをやっていると聞きました。どういうサービスですか?

【田中】私たちは靴をメインに扱っていますが、それだけだとZOZOさんに潰されるという危機感があったし、ザッポスもやっていないことに挑戦したいという思いもあった。そこで考えたのが、私たちが持っているシステムや物流の仕組みをサービスとして提供するビジネスです。たとえば靴メーカーに向けて、システムの支援をしたり、店舗への出荷を手伝ったりします。システムや物流のインフラはもともと自分たちが持っているものなので安く提供できます。私たちにとっても、靴屋さんとの関係を強化できるメリットがあります。