【田原】田中さんは著書で、マッキンゼーの人は年俸1億円でも辞めると書いていた。辞めてもそれくらいは稼げるっていうこと?

ロコンドCEO 田中裕輔氏

【田中】というか、お金じゃないんですよね。入社してよく言われたのは、「おまえは何を成し遂げたいのか」「それは世の中にインパクトを与えられるのか」ということ。私は外に出て靴業界を変えたいと思ったし、中にはNPOを運営したり、政治家になって社会を変えようとする人もいます。また、マッキンゼーにいたほうが大きな仕事ができると考えて勤め続ける人もいる。いずれにしても判断軸は、世の中にインパクトを与えられるかどうか。それに比べると年収のプライオリティは低いと考える人がほとんどでした。

【田原】実際、田中さんもお辞めになる。経緯を教えてください。

【田中】UCバークレーに留学中だった2008年に、ザッポスのCEO、トニー・シェイの話を聞きました。そこで聞いたビジネスモデルにインパクトがあって、日本で自分でやってみたいと思ったのがきっかけです。

【田原】どんなビジネスモデルですか。

【田中】ザッポスは靴のECサイトを運営する会社です。靴は試着が必要なので、当時は靴をネットで売るという考え方が世の中にありませんでした。それを世界で最初に始めたのがザッポスです。

【田原】僕も靴は靴屋で実際に履いて確かめてから買いますよ。ネットで買う人は試着しないのかな。

【田中】します。トニー・シェイが考えたのは、ネットで試着をする方法。ザッポスは、送料も返品送料も無料。だから気軽に注文して、家でお試しができるようにしました。そこが画期的でした。

【田原】家にいながらにして試着できるようになったわけね。

【田中】靴は、むしろリアル店舗のほうが向いていないと思っています。色やサイズのバリエーションが多いのに、かさばって場所を取るから店舗に在庫をあまり置けない。その結果、せっかく店舗に行ったのに欲しい色やサイズがなかったという事態がけっこう起きます。一方、ネットは店舗に比べると在庫の制限が少ない。試着さえできれば、店舗よりいい体験ができるんです。

【田原】ザッポスは靴だけ?

【田中】靴がメインですが、洋服やカバンなども扱っています。

【田原】そのビジネスを日本でやろうと起業したんですか?

【田中】紆余曲折があります。じつは最初に起業したのはアメリカ留学中で、ゲームの会社でした。ゲーム自体はうまくいって会員も集まったのですが、資金が足りず、泣く泣く売却することに。同じ轍は踏みたくなかったので焦らずにタイミングをうかがっていたら、帰国後、ロケットインターネットというドイツの投資会社が靴の通販を日本でやり始めました。この会社がロコンドで、私はマッキンゼーに勤めながらインターンとして手伝い始めた。11年の1月のことでした。