会談は「世界最大の政治ショー」となった
ベトナムの首都ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談は、物別れに終わった。突然、予定されていた昼食会と共同声明の署名式典がなくなり、アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が予定を繰り上げて帰国してしまった。
何かと物議を醸し、国際社会から嫌われるこの2人。それだけに会談は世界最大の政治ショーでもあり、沙鴎一歩はもう少し楽しみたかった。残念である。
それにしても首脳会談で驚かされたのが、正恩氏のプロパガンダのうまさ、アピール力のすごさである。
正恩氏は2月23日の夕方、特別列車に乗って北朝鮮の平壌(ピョンヤン)を出発して26日午前8時(日本時間午前10時)過ぎに中国との国境に近いベトナムのドンダン駅に到着した。約65時間という長い鉄路の旅だった。
これまで正恩氏は中国やシンガポールを公式訪問してきたが、これだけの長い移動は初めてだろう。
なぜ専用機ではなく列車でベトナムまで向かったのか
正恩氏はなぜ、航空機ではなく列車を選んだのか。
テレビや新聞はその理由を正恩氏の性格や北朝鮮の国情を分析したうえで、こう報じている。
祖父の金日成(キム・イルソン)主席の足跡をたどることで、自らの権威を国内外に示したかった。1958年に日成氏が初めてベトナムを訪問したとき、平壌から中国・北京まで特別列車で移動した。ベトナムで出迎えたのがベトナム建国の父といわれるあのホー・チ・ミン主席だった。
もちろん正恩氏は専用機を持っているが、老朽化が進んで性能がかなり落ちている。昨年6月の1回目の米朝首脳会談でシンガポールに行ったときと同じように中国の特別機を使わせてもらう方法もあったが、正恩氏の体面がそれを許さなかったらしい。
航空機と違って、列車と車(ドンダン駅からハノイまで黒塗りの車両)の旅は、中国やベトナムの町や村を車窓からじっくり見ることができるという利点もある。北朝鮮にとってベトナムはモデル国でもあり、正恩氏は直接自分の目で経済的に発展した様子を見たかったのだろう。
それに北朝鮮とベトナムはベトナム戦争でアメリカと戦った戦友国でもある。