あれほど楽観していた大統領の言葉は何だったのか
事実上の決裂に終わった米朝首脳会談を受け、新聞各紙は3月1日付の社説で一斉に取り上げた。しかしその大半は肩肘張っていて、斬新さに欠け、主張自体がマンネリ化している。たとえば朝日新聞の社説はその中盤でこう主張する。
「だが、もはや後戻りはできない。トランプ氏と金正恩・朝鮮労働党委員長は前回、『朝鮮半島の永続的な平和体制』づくりを誓った責任がある。今度こそ事務方の協議を重ね、仕切り直しをめざすほかあるまい」
見出しも「実質交渉を仕切り直せ」である。
だれが見ても、仕切り直しは当然のことである。トランプ氏本人も正恩氏に交渉の継続を約束している。もしトランプ氏がこの朝日社説を読んだら、「当たり前のことを主張するな」と怒り出すかもしれない。
朝日社説の書き出しは「今度こそは、という国際社会の期待に大きく背く再会だったといわざるをえない」で、これに「あれほど楽観していたトランプ大統領の言葉は何だったのか、空しさが漂う」と続く。
朝日社説らしい皮肉を込めた書きぶりではあるが、果たして国際社会は朝日社説が指摘するようにそこまで2人の会談に期待していたのだろうか。
ロシア疑惑でお尻に火が付いているトランプ氏
国際原子力機関(IAEA)の核査察や関係各国の6カ国会議など、国際社会はこれまで何度も、北朝鮮に核・ミサイル開発の中止を求めてきた。しかし北朝鮮はあの手この手で開発を続け、いまや核保有国の仲間入りを成し遂げようとしている。トランプ氏が交渉したところで、正恩氏の態度が急変することはない。国際社会はそう自覚し、交渉の難しさを十分に理解している。
朝日社説はこうも指摘する。
「トランプ氏が過剰な譲歩を控えたのは正しいとしても、そもそも溝が深すぎる。事前の準備の乏しさは否めない」
「国同士の問題の解決は本来、事務方の地道な交渉の積み重ねを要する。それを経ずにいきなり首脳会談に踏み切ったトランプ流の外交を本紙社説は『賭けに近い実験』と評した」
「溝が深い」「賭けに近い実験」。こう書くところを見ると、朝日社説も北朝鮮を相手にする難しさは理解しているようだ。ならば次はどう対処するかだ。
朝日社説はまず北朝鮮に「いずれ北朝鮮は米国批判を強めるかもしれないが、自らの態度を変えねば、孤立から抜け出せないことを悟るべきだ」と訴え、アメリカにはこう求める。
「朝鮮半島を緊張局面に戻すことは避けねばならない。そのためにも米国は迅速に米朝交渉を立て直す必要がある」
正論だが、ロシア疑惑でお尻に火が付いているトランプ氏にその余裕があるだろうか。まずはロシア疑惑の今後の展開を見届ける必要がある。